支部長より皆さまへのご挨拶
2025年4月から日本英文学会中国四国支部の支部長となりました小野章(おのあきら)と申します。
思い返せば、英文学を志し、広島大学の門を叩いたのが1986年4月。入学当初は、英米文学の「大御所」が誰なのかも知らず、シェイクスピアでさえ、辛うじて名前を知っている程度でした(本当に)。そのシェイクスピアに関しては、高校(岡山県立倉敷天城高等学校)の先生が、「英語を学ぶ者として、Shakespeareのつづりくらいはちゃんと書けるようにしておいてほしい。最後のeを忘れないように」と言われていたのを妙に覚えています。また、高2(高1だったかも)の夏休みの補習授業では、O. HenryのAfter Twenty Yearsを原文で読み、作品冒頭から、「これは今まで触れてきた英語とは全く違う」と直感したのを覚えています。その冒頭を引用します。
The policeman on the beat moved up the avenue impressively. The impressiveness was habitual and not for show, for spectators were few. The time was barely 10 o'clock at night, but chilly gusts of wind with a taste of rain in them had well nigh depeopled the streets.
「“policeman”は初出なのに、定冠詞が付いているのはなぜ? “impressively”とは、どんな歩きぶり? “impressiveness”が“not for show”とはどういうこと? 接続詞“but”が使われているのはなぜ? “a taste of rain”って、どんな味?」等々、簡単だと思っていた “show”や“but”や“taste”たちが急に難しさを主張してきました。そして、「ことばは面白い!」と実感しました。文脈を手掛かりに、意味の仮説を立てながら、その仮説を辞書等で検証する。そのためには、しっかりとした辞書を使って、例文も丹念に読む。一見地味でありながらも、実にスリリング。映画にもなった、三浦しをん作『舟を編む』(2011年)を読んだとき、高校生だった自分が体験したことが書かれているなと思いました。
AI等の急速な発達により、異言語間の翻訳はもとより、白紙の状態から文章を書き上げることさえ可能になりました。しかし、どれほどAIが進化しようとも、味わい深いことばを紡ぎ、紡がれたことばからその味を引き出し、さらには「味変」をも楽しむ、といった人の営みは続いていくはずです。本支部の活動を通し、ことばが私たちに快楽や慰めを与えてくれることを再確認したいものです。
2025年4月1日
支部長 小野 章