2025年1月14日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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渡千鶴子・木村晶子・侘美真理(編著) | 『アン・ブロンテの研究――世紀を超えて』 | 大阪教育図書 | 2024年 |
【梗概】
本書は、「アン・ブロンテ生誕200年」を記念するシンポジウム(2021年10月16日にZoom開催された日本ブロンテ協会第36回大会)に端を発している。以前と比べるとアンの知名度は高くなり、研究も活発になってきている。しかし、シャーロットやエミリに特化した研究書の数は圧倒的に多く、アンとの間には雲泥の差がある。それゆえ、長い間等閑視されてきたアンの作品に光を当てて、研究に資する鉱脈が眠っていることを査証しようと、執筆者5人は作品に真摯に向き合い、精緻な検証を試みた。扱ったのは2冊の小説と絵画である。
田村真奈美:『アグネス・グレイ』の登場人物のマナーズに注目し、マナーズから読み取れる人物の人間性や道徳性には階級との繋がりがあることを検証して、優れた道徳心には信仰の裏づけがあることを明らかにしている。そしてそれはこの自伝を書いた語り手の目的でもあることを解明して、最後に、アンの作品の描き方にも着目して、アンの特質に迫っている。
侘美真理:『アグネス・グレイ』の表向きは、信仰と道徳の道を第一義とする物語として明確に提示されており、物語の展開からも伝統的な自然観が基調となる作品である。しかし、一方で、一般的な自然観及び博物学のジャンルは、19世紀前半に変容して中頃までには崩れ始めていたことに注意を注いで論を展開すると、アグネスの両義性が明快になり、伝統と革新の二重性を描いたアンの戦略が鮮明に浮かび上がると結論づけている。
木村晶子:『ワイルドフェル・ホールの住人』は、リアリズム小説とされる作品ではあるが、ゴシック的側面を指摘した論考もある。しかし、18世紀後半以降の<女性のゴシック>の伝統に位置づけた解釈がない。この点に焦点を当てて、<女性のゴシック>の伝統の継承と隔たりを議論することで、独自の作品空間を創造したアンが、姉妹の中で最も先進的なフェミニズム作家であったことを立証している。
渡千鶴子:『ワイルドフェル・ホールの住人』において、当時としては男女平等意識に目覚めた男性であると考えられるギルバートが、ヘレンの言葉を裏切ってまで、なぜ妻の日記を内枠にした長い手紙をハルフォードに書き送ったのかを、オープニング・セクションと1章から53章までの物語から検討することによって、作品に潜む性の多様性を炙り出し、アンの卓越した手法を跡づけている。
兼中裕美:アンの描いた「日の出に海の風景を見る女性」に関する従来のさまざまな解釈の問題点を指摘したあと、この絵画に描かれた女性について、シャーロットとティソットとの絵画とも比較して、最後に、エミリとの共同創作であるゴンダル物語や日記から、絵画制作への影響を詳細に掘り下げて論証することによって、アンの特徴を導き出している。
【目次】
粗野なジェイン・オースティン?――『アグネス・グレイ』再読 田村真奈美
『アグネス・グレイ』における植物と植物学――伝統と現代を示す二重の構造 侘美真理
<女性のゴシック>として読む『ワイルドフェル・ホールの住人』 木村晶子
ギルバートの人物像を探る――結婚の先に見る性の多様性 渡千鶴子
アンブロンテの絵画をめぐる一考察――海の風景と女性像 兼中裕美
あとがき
執筆者紹介
索引