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2023年12月25日

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著者名 書名 出版社 出版年
渡千鶴子 責任編集 ・ 橋本史帆 編著 『言葉を紡ぐ———英文学の10の扉』 音羽書房鶴見書店 2023


【梗概】
 本書は、文学研究が厳しい現状を鑑み、ささやかな論文集を編んで、学生に示唆を与え、研究者にも興味を持っていただき、自らを鼓舞できるような書物を刊行できればとの思いを出発点とし、文学が時空を超えて、心の琴線に触れることを念頭に置いて編まれたものである。作家が重ならないこと、執筆者の問題意識を大切にすること、研究成果を余すところなく発揮することを旨としたので、アプローチも力点の置き方も様々であるが、具体性を持たせるために三つのカテゴリー(一「言葉」と作家、二「言葉」と時代、三「言葉」との呼応)を設定している。
 一「言葉」と作家
 第一章(渡千鶴子):『教授』において、<新しい男>と<新しい女>がコインの両面のような価値観を持つことや、進歩的な友情と知性を持つ男性と「基準値からはみ出した男性性」がいかに描かれているかを解明して、作家の苦渋の選択のプロセスを跡づけている。第二章(山内理惠):D・H・ロレンスとJ・M・バリが、それぞれの作品で、死を冒険に喩えた点を着眼点として、二人の関係性を探り、彼らが死を冒険と呼ぶに至った背景に共通する伝記的要素と価値観を考察している。第三章(野中美賀子):「老水夫行」の改訂における超自然の「存在」を分析して、それがどのような相違や効果が生じているかを検証している。コウルリッジとワーズワスの意見の相違や、コウルリッジの不信の念の停止の詩的技巧がどのように扱われたかにも着目する。第四章(古野百合):母マリアが息子に残したペンザンスの残影を紐解きつつ、当時の海上情勢にも焦点を当てながら、海賊表象の転換期に弱冠一五歳のブランウェルが「海賊」に描こうとしたものに光を照らしている。第五章(友田奈津子):光なき夜を描く詩としてダンの作品の中に現れる二つの詩を中心に、いかに夜が描かれ、またその描写が何を意味するのかを、暗闇を言葉で紡ぐダン固有の詩的表現に注目して検討している。
 二「言葉」と時代
 第六章(橋本史帆):論じられることの少ない「丘の家の侵入者」の登場人物の言葉や行動を、当時のイギリスの社会事情である移住や結婚と照合して論を展開することで、作品の深層部にある意味世界を明らかにしている。第七章(麻畠徳子):「プロフェッションとしての文学」をキーワードに、後期ヴィクトリア朝の急速な文学の商業化の波が、プロとしての「言葉」を生み出す職業作家の意識をどのように変えたのかを、社会的および経済的見地から描述している。第八章(高橋路子):ポストフェミニズム時代において、「ヴァージニア・ウルフなんかこわくない」というフレーズが有効であることに注視して、新自由主義と消費社会の観点からウルフの作品がどのように扱われているのかを論じている。
 三「言葉」との呼応
 第九章(淺田えり佳):「言」ロゴスが、神による命の創造から逸脱して生まれた『フランケンシュタイン』の怪物に宿っているのか、また脇に追いやられて夫に服従する女性たちにもロゴスの恩恵は与えられているのかを詳細に辿っている。第一〇章(木梨由利):独特の作品構造を用い、超自然的な要素も含めて深い含蓄を持つ表現を全編にちりばめることで、少女たちの悲しみのみならず、イギリスの歴史の流れまでをも、わずか一五頁の短編に描写されていることを立証している。


【目次】
ご挨拶
一「言葉」と作家
㊀作品の特別な言葉
第一章 「言葉」から探る多様な性———シャーロット・ブロンテの『教授』出版の苦渋
第二章 死の冒険から見るJ・M・バリとD・H・ロレンスのつながり
第三章 コウルリッジ「老水夫行」改訂における超自然の現象や存在
㊁作家の意識や信条
第四章 母マリアとペンザンスの残影———ブランウェル・ブロンテの「海賊」———
第五章 ジョン・ダンの二つの夜想詩
二「言葉」と時代
㊀当時
第六章 トマス・ハーディの「丘の家の侵入者」における移住と結婚
第七章 プロフェッションとしての文学———後期ヴィクトリア朝文学市場にみる職業作家の創作意識の変化———
㊁現代
第八章 ポストフェミニズム時代に読む『ダロウェイ夫人』
三「言葉」との呼応
ことば
第九章 ロゴスを持たない女たち———『フランケンシュタイン』における女性による創造の禁忌———
㊁構造
第一〇章 時空を超える少女たち———「幸せな秋の野原」の構造をめぐって———
あとがき
索引
執筆者紹介


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