2025年1月13日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
---|---|---|---|
竹村はるみ | 『シェイクスピアと宝塚』 | 大修館書店 | 2024年 |
【梗概】
本書は、大衆芸能の粋としてのシェイクスピア劇の特性を一般読者に向けてわかりやすく解説すると共に、宝塚歌劇団によってこれまで上演されたシェイクスピア劇を原作とするミュージカル作品の魅力を紹介する。第一部は喜劇、第二部は悲劇で、各章で1作品ずつを取り上げて概説し、第三部ではシェイクスピア伝についても概観する。
1914年の創立以来、西洋文化を大衆レベルで日本に導入する役割を果たした宝塚歌劇団は、シェイクスピア劇をはじめとする海外文学のミュージカル化にも早くから取り組んできた。宝塚で上演された芝居の原作は、それこそ文学作品、漫画、映画、ゲームと実に幅広い。文学作品だけをとっても、『源氏物語』のような日本の古典文学作品から、ロシア文学・英米文学・フランス文学・ドイツ文学といった海外文学作品まで様々である。その中でもシェイクスピア人気は高く、単独作家としては他の追随を許さない。劇団創設後間もない1918年(大正7年)に創業者小林一三の脚本で上演された『クレオパトラ』に始まり、現在に至るまで、シェイクスピア全作品のうち少なくとも三分の一以上が宝塚でミュージカル化されている。
400年以上前のイギリスで、ウィリアム・シェイクスピアが座付き作家として所属した宮内大臣一座は、ロンドン市民の間で空前絶後の演劇ブームを巻き起こし、今なお演劇の都として繁栄するロンドンの劇場文化の礎を築き上げた。一方、演劇によって地域文化が創出されたのは、宝塚も同じである。文芸をこよなく愛する実業家小林一三によって設立された宝塚歌劇団は、大人も子供も、家族や友人と共に日常的に観劇を楽しむ文化的土壌を関西に根づかせ、100年以上を経た今も日本の商業劇団の代表的存在として確固たる地位を確立している。テムズ川の畔に立つグローブ座と、武庫川の畔に立つ宝塚大劇場は、演劇による町おこしの輝ける殿堂なのである。
シェイクスピア劇と宝塚歌劇の共通項は、それだけではない。女優という職業が存在しなかったシェイクスピアの時代において、女性の役は全て男性によって演じられた。一方、宝塚歌劇団は、女性演者のみで構成される稀有な劇団として有名である。異性装は、宝塚歌劇団とシェイクスピア劇の重要な親和性を示している。他にも、客席に向かってせり出した舞台構造、生の器楽演奏による演出効果、舞台上で起きることに対する観客の心理的反応を巧みに操作する作劇術など、両者には大衆演劇ならではの特性が共通している。
宝塚でシェイクスピアを学び、シェイクスピアで宝塚を学ぶ―そんな一石二鳥の目的を掲げる本書の根底にあるのは、シェイクスピア劇と宝塚歌劇が共に有する大衆娯楽(エンタメ)としての特性を見据え、両者の時空を超えた共鳴を考察する視点である。その際に、大衆演劇文化の発展を支えるファンの重要性、そして固定客の〈萌えの構造〉を意識した商業演劇ならではの仕掛けにも目配りする。
【目次】
第I部 喜劇
第1章 『じゃじゃ馬ならし』―オレ様男とおもしれー女
『キス・ミー・ケイト』
第2章 『夏の夜の夢』―妖精だって恋をする!
『PUCK』
第3章 『十二夜』―人騒がせな美少年
『ピガール狂騒曲―シェイクスピア原作「十二夜」より―』
第4章 『冬物語』―「男同士の絆」の深い闇
『冬物語』
第5章 『テンペスト』―ファンタジックなシェイクスピア
『TEMPEST―吹き抜ける九龍―』
第II部 悲劇
第6章 『ロミオとジュリエット』―ロマンティックが止まらない!
『ロミオとジュリエット』『WEST SIDE STORY』
第7章 『ジュリアス・シーザー』―英雄の条件
『暁のローマ-「ジュリアス・シーザー」より-』
第8章 『ハムレット』―こじらせキャラは好きですか?
『HAMLET!!』
第9章 『オセロー』―カタルシスとは何か?
『The Lost Glory-美しき幻影-』
第10章 『アントニーとクレオパトラ』―往生際の美学
『真紅なる海に祈りを-アントニーとクレオパトラ-』
第11章 『二人の貴公子』―舞台化された騎士道ロマンス
『二人の貴公子』
第III部 伝記
第12章 ウィルが世界を回らせる―輝け、われらがトップスター!
『Shakespeare―空に満つるは,尽きせぬ言の葉―』
あとがき
宝塚歌劇団により上演されたシェイクスピア関連作品一覧
索引