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2023年4月9日

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著者名 書名 出版社 出版年
田尻 芳樹 著 『J・M・クッツェー――世界と「私」の偶然性へ』 三修社 2023


【梗概】
 本書は南アフリカ出身で二〇〇三年にノーベル文学賞を受賞した作家ジョン・マクスウェル・クッツェー(John Maxwell Coetzee)に関して、全主要作品(小説も評論も)を原則として出版年順に解説、論評することで、彼の文学への導きの書となることを目指している。もちろん、すでに彼の作品を知っている読者にさらに深く考えてもらうことも目的としている。作品論と合わせて伝記的情報も盛り込んだので評伝として読んでもらうこともできる。
 序章では、まず南アフリカという彼が生まれ育った国について解説し、小説家としての経歴を開始するまでの少年期、青年期を伝記的に記述する(そこでは自伝的小説『少年時代』、『青年時代』を参照する)。次いで、本書全体の構成を説明しながらその後の経歴を簡略に示す。最後にクッツェー文学の研究史を概観し、本書のクッツェー研究としての特色を明確にする。
 第一章「一九七〇年代から八〇年代へ――作家の誕生と飛躍」は、最初の小説『ダスクランズ』を一九七四年に出版してから、小説家として国際的名声を獲得する一九八〇年代までをカヴァーする。
 第二章「一九九〇年代の多彩な展開」は、アパルトヘイトが終焉して南アフリカが大きな変化を遂げた一九九〇年代の著作を検討する。
 第三章「大いなる転換期」は、クッツェーが国際的に知られた「南アフリカの作家」からより本質的な意味でのグローバルな作家へと転換していく重要な過渡期を扱う。
 第四章「オーストラリアへの移住と模索」は、二〇〇二年にオーストラリアに移住し、二〇〇三年にノーベル文学賞を受賞してからの作品を扱う。
 第五章「イエス三部作と近年の動向」では、死後の世界を描いたと思われる不可思議な「イエス三部作」と、クッツェーの「南の文学」へのコミットメントなどを扱う。
 補論一では、「近代文学の終わり」というクッツェー文学の重要な主題を論じて、彼を近・現代文学史の中に位置づける。
 補論二では、「イエス三部作」で浮上した、やはり重要なテーマである、世界と「私」の偶然性の問題について、デカルトを手がかりにしながら探究する。
 これら二つの補論は、クロノロジカルに作品を追ったために本論部分で十分に論じきれなかった二つのテーマをより深く掘り下げるもので、ここに本書のクッツェー研究としての独自性があると考えてもらってよい。
 その他、学者、批評家でもあったクッツェーの評論にも十分目配りしたこと、私自身がクッツェー氏と個人的に交流したり、国際クッツェー学会に参加したりした経験を紹介したことも本書の特質である。


【目次】
序章
第一章 一九七〇年代から八〇年代へ――作家の誕生と飛躍
 『ダスクランズ』Dusklands (1974)
 『石の女』In the Heart of the Country (1977)
 『夷狄を待ちながら』Waiting for the Barbarians (1980)
 『マイケル・K』Life & Times of Michael K (1983)
 『フォー』Foe (1986)
 『南アフリカの白人文学』White Writing: On the Culture of Letters in South Africa (1988)
第二章 一九九〇年代の多彩な展開
 『鉄の時代』Age of Iron (1990)
 『振り返って考える――論文とインタヴュー』Doubling the Point: Essays and Interviews (1992)
 『ペテルブルグの文豪』The Master of Petersburg (1994)
 『検閲論』Giving Offense: Essays on Censorship (1996)
 『少年時代』Boyhood: Scenes from Provincial Life (1997)――三人称と現在形について
第三章 大いなる転換期
 『動物のいのち』The Lives of Animals (1999)
 『恥辱』Disgrace (1999)
 『見知らぬ岸辺』Stranger Shores: Essays 1986-1999 (2001)
 『青年時代』Youth (2002) ――遅れてきたモダニスト
 『エリザベス・コステロ――八つのレッスン』 Elizabeth Costello: Eight Lessons (2003)
第四章 オーストラリアへの移住と模索
 『遅い男』Slow Man (2005)
 『悪い年の日記』Diary of a Bad Year (2007)
 『内部の作動』Inner Workings: Essays 2000-2005 (2007)
 『サマータイム』Summertime: Scenes from Provincial Life (2009)
 『ヒア・アンド・ナウ』Paul Auster & J.M.Coetzee, Here and Now: Letters 2008-2011 (2013)
 『良い物語――真実、フィクション、心理療法をめぐる対話』Arabella Kurtz & J. M. Coetzee, The Good Story: Exchanges on Truth, Fiction and Psychotherapy (2015)
第五章 イエス三部作と近年の動向
 『イエスの幼子時代』The Childhood of Jesus (2013)
 『イエスの学童時代』The Schooldays of Jesus (2016)
 『イエスの死』The Death of Jesus (2019)
 『晩年の評論』Late Essays 2006-2017 (2017)
 『モラルの話』Moral Tales (原書未刊)
 『ポーランド人』The Pole (2023)
補論一 近代文学の終わりとJ・M・クッツェー
補論二 クッツェー文学における「私」の問題――デカルトの主題による変奏
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あとがき

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