cover art

2025年3月31日

会員著書案内
著者名 署名 出版社 出版年
大田信良・大谷伴子・四戸慶介(編著) 『ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズ序説』 小鳥遊書房 2025年

【梗概】
 2017年の第一次トランプ政権誕生や、その後のイギリスのEU脱退を経て、英米国内における社会の分断が浮き彫りになってきた。さらに、2020年からはじまった新型コロナ感染症拡大によるパンデミック、そして2022年のロシアのウクライナ侵攻によってより顕在化されたのは、地政学的な分断と、民主主義国家と権威主義国家の対立構造―英米や日本などにみられるリベラリズムに対するロシアや中国の挑戦、という構造である。このような構造は、今年はじめの第二次トランプ政権発足を受けて、今後さらに強化される可能性が色濃くなった。そして現在わたしたちが直面しているのは、リベラルな国際秩序の動揺であり、より不透明化される国際関係にまつわる問題である。そのため、これまで『アール・デコと英国モダニズム―20世紀文化空間のリ・デザイン』、『ブライト・ヤング・ピープルと保守的モダニティ』、そして『ショップ・ガールと英国の劇場文化―消費の帝国アメリカ再考』を通して、英国モダニズム/モダニティとリベラリズム、さらに個人主義と資本主義の関係について議論が重ねられてきた。それらを踏まえ、社会・世界で分断が拡大する状況で、英語文学・文化研究ができることとは何なのかを念頭に、着手されたのがこの『ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズ序説』である。
 本論集『ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズ序説』は、グローバル化とその終焉をめぐる問題にわれわれみんなが適切に対応しうる「英文学」研究という観点に立つことを試みる。それは、グローバル化の終焉または「アフター西洋」に開かれた英米文学といってもよい。そうすることで、ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズという研究プロジェクトは、世界の各地で広がりをみせつつあるシティズンシップの英文学(および、それに連動する英語教育とともに)を再考する作業を開始する。この研究プロジェクトは、G・アリギの長期持続(longue durée)の枠組みをふまえたうえで狭義の「英文学」をふくむグローバルなイングリッシュ・スタディーズを採用するとともに、ユーラシアの空間全体のダイナミズムに注目する。こうした方法により、旧来の制度化された狭義のナショナルな「英文学」を包含するような、近代西洋とりわけ19世紀以降の英米の覇権あるいはパワーとマネーとその文化・文学を、ユーラシアの西部・中央部ではなく新たに批判的に研究対象として設定することは、「英文学」が持続的に孕み続けているさまざまに変容するリベラリズムまたは「リベラル・デモクラシーのジャーゴン」を、東アジアの視座から、より徹底化したやり方で吟味する作業をさまざまな研究者・読者とともにみんなでグローバルにおこなうことにつながるはずである。

【目次】
はじめに グローバル化以降の英文学研究としての「アフター西洋」?
     ―ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズに向けて(大田 信良)

第Ⅰ部 ネオ・ユーラシア主義の出現と20世紀の地政学
第1章 社会・世界の分断と(英語)文学・文化研究(四戸 慶介)
参考地図
第2章 『ビフォア・ザ・レイン』、バルカン問題、英米関係
    ―英国映像文化が表象する国際政治、あるいは、「短い20世紀」の地政学的表象(大谷 伴子)
第3章 シティズンシップの英文学と『シークレット・エージェント』を再考する
    ―ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズのために(大田 信良)

第Ⅱ部 ユーラシアのイングリッシュ・スタディーズのための試論
第4章 ネロの逆襲、あるいは、逆襲のパトラッシュ―『フランダースの犬』と資本主義の向こう側(髙田 英和)
第5章 ユーラシアから見る『歳月』と『失われた地平線』のチベット―新しい文明と理想郷という緩衝地帯(四戸 慶介)
第6章 ヴィタ・サックヴィル=ウェストのPassenger to Teheranとイラン
    ―プロパガンダあるいはソフト・パワーとしての英語文化(菊池 かおり)
第7章 イシグロとグローバル化する英国映像文化―ヘリテージ映画としての『日の名残り』?(大谷 伴子)

第Ⅲ部 グローバル化以降の21世紀英米文化?
第8章 English as an Additional Languageとシティズンシップの英文学
    ―イングリッシュ・スタディーズの再編に向けての覚書(大田 信良)
第9章 グローバル・ブリテンの文化?―ブレグジット以降の英国とユーラシア(大谷 伴子)
おわりに 社会・世界で分断が拡大する状況で、英語文学・文化研究ができかることとは何なのか(四戸 慶介・菊池 かおり)

トップページに戻る