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2024年7月4日

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著者名 書名 出版社 出版年
佐々木真理 『アーシュラ・K・ルグィン――新たなる帰還』 三修社 2024

【梗概】
 本書は、アーシュラ・K・ルグィンという一人の作家の軌跡を、長編作品を中心に、原則として年代順に論じたものである。論じるにあたっては、優れた批評家でもあり、自らの作品に透徹した眼差しを向け続けたルグィン自身の言葉に重きを置いた。ルグィンは、過去に提示し思考したテーマへ立ち戻り、ふたたび問い直す試みを生涯続けたが、作家としてのそのような遍歴を、SFやファンタジーというジャンルの問題、同時代のアメリカ社会と文学の潮流、そして文学とジェンダーとの関りをキーワードに、全5章でたどっていく。
 まず、序章において、同時代のアメリカ社会の状況を踏まえながら、簡単にルグィンの生涯をたどる。第1章「始まりの場所」では、初期のリアリズム作品から最初のSF長編作品執筆にいたる変化を検証することで、ルグィンがSFとファンタジーというジャンルを選んだ経緯と、その後の作品の根幹をなす主題と手法を模索した姿を明らかとする。第2章「二つの旅」では、代表作であるアースシー・シリーズ第1作『影との戦い』と、ハイニッシュ・ユニバース・シリーズの『闇の左手』を取り上げ、ファンタジーとSFにおける二つの異なる旅がどのような問いを共有し、異なる地点へとたどり着いたのか、さらには新たな問いを提示したのかを論じている。第3章「めぐる旅路の果てに」は、アースシー・シリーズの続く2作品と、ルグィンの最良の作品の一つであるユートピア小説『所有せざる人々』を中心に、理想の社会と自由を求めるルグィンの旅が到達した地点を捉えようと試みている。第4章「彼女たちの声」は、1960年代後半以降フェミニズム批評について学んだルグィンが、新たな問いと対峙するために過去の作品へと向き直ることを選んだ旅として、後期の代表作である『アオサギの眼』、『オールウェイズ・カミングホーム』、そして『帰還』を考察する。過去の作品における世界をまったくの新たな視点で読み直すこれらの作品は、作家としてのルグィンの深化を示していると言えるだろう。そして、最終章の第5章では、ここまでのルグィンの旅の締めくくりとなる『アースシーの風』、そしてさらなる新たなシリーズへと向かう彼女の姿を追い、螺旋を描くように同じ問いを新たな観点から問い直し続けた晩年の作品を検証している。
 ルグィンの創作に対する信念は、作家としての長いキャリアの中で変容し深みを増しつつも根幹は揺らぐことはなかった。SFとファンタジーというジャンルの持つ豊かな可能性を信じ、その限界を押し広げたルグィンの作品は、最良のアメリカ文学との邂逅をもたらしてくれるものであると、本書を通して感じていただけると幸いである。

【目次】
序章
第1章 始まりの場所――『オルシニア国物語』からロカノン三部作
 『オルシニア国物語』――リアリズムとの葛藤
  ロカノン三部作――SFの発見
第2章 二つの旅――『影との戦い』と『闇の左手』
 『影との戦い』――内なる影
 『闇の左手』――旅を共にするもの
第3章 めぐる旅路の果てに――『こわれた腕環』『さいはての島へ』『天のろくろ』『世界の合言葉は森』『所有せざる人々』
 『こわれた腕環』――他者と共に歩む
 『さいはての島へ』――影の国へ
 『天のろくろ』――ユートピアを目指して
 『世界の合言葉は森』――怒りと失意のユートピア
 『所有せざる人々』――往還するユートピア
第4章 彼女たちの声――『アオサギの眼』『オールウェイズ・カミングホーム』『帰還』
 『アオサギの眼』――予兆
 『オールウェイズ・カミングホーム』――新たな声
 『帰還』――アースシーを語り直す
第5章 過去との対話、そして最後の旅へ――新たなハイニッシュ・ユニバース・シリーズ、最後のアースシー作品、西のはての
    年代記、『ラウィーニア』
 『赦しへの四つの道』『言の葉の樹』――新たなハイニッシュ・ユニバースと過去
 『ドラゴンフライ』――最後のアースシーへ
 『アースシーの風』――自由の風
  西のはての年代記から『ラウィーニア』へ
  最後の楽園――そして、新たなる帰還

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