2024年2月15日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
---|---|---|---|
尾崎俊介 | 『アメリカは自己啓発本でできている――ベストセラーからひもとく』 | 平凡社 | 2024 |
【梗概】
アメリカ発祥の文学ジャンルであるという意味で、最もアメリカ文学らしいアメリカ文学とも言える「自己啓発本」について、その原点から語り起こし、以後200年を超えるこの文学ジャンルの発展経緯をたどった解説書。前著『14歳からの自己啓発』(トランスビュー、2023)に続く二冊目の「アメリカ自己啓発本文学史」ということになる。
「自己啓発本」というのは、基本的には立身出世や金儲けを指南する本であり、世俗臭芬々たる本というイメージを持たれている方も多いだろう。ましてや超俗たることを良しとする人たちからは忌避されがちな文学ジャンルであり、実際、アメリカ文学研究者で自己啓発本を愛読しているという人に私は会ったことがない。
だが、自己啓発本の原点はベンジャミン・フランクリンの『自伝』及び『貧しいリチャードの暦』にあると言ったら? 自己啓発本の中でも特にインチキ臭いと思われている「引き寄せ系自己啓発本」の理論的支柱がラルフ・ウォルドー・エマソンであると言ったら? 第二波フェミニズムの原点たるベティ・フリーダンの『女性らしさの神話』が、「女性向け自己啓発本」のハシリだと言ったら? 「セールスマン」の意味が分からなかったら、アメリカ文化など理解できるはずがないと言ったら? スポック博士の育児本以来、アメリカで生み出された自己啓発本の多くがヒッピー崩れのベビー・ブーマー向けに発信されていると言ったら? ジョギングもサーフィンもフリスビーも合気道も、自己啓発思想を理解しなければその真の意味を理解することができないと言ったら? フランシス・R・コヴィーの『7つの習慣』をはじめ、今日隆盛を極めるビジネス・コーチング系自己啓発本の発祥地はハーバード大学のテニスコートだと言ったら? ヘンリー・デヴィッド・ソローの文学的系譜が、今なお「(女性向け)日めくり式自己啓発本」の中に受け継がれていると言ったら? それでもあなたは、アメリカと自己啓発本の深いつながりを無視できるだろうか?
自己啓発本なるものがあったからこそアメリカは国として成立したのだし、自己啓発本があったからこれだけの発展をし、今日あるような形の国となった。だから「アメリカは自己啓発本でできている」と言っていい――これがこの文学ジャンルを研究してきた私の現在の認識である。
そんな馬鹿な、と思う前に、まずは本書を、あるいは前著『14歳からの自己啓発』を、読んでいただきたい。その上で、先の認識の是非についてご意見をお聞かせ願えれば、著者としてこれに勝る喜びはない。
【目次】
第1章 自己啓発思想の誕生
・厳格なカルヴァン主義ピューリタニズムの縛り
・天国=現世において抱く幸福感
・自己啓発本の王道「努力して成功する」
・フランクリン『フランクリン自伝』
・カーネギー『カーネギー自伝』
・コヴィー『7つの習慣』
第2章 引き寄せ系自己啓発本の誕生
・「宇宙」エネルギーの登場
・資本主義の欲望は「神の意志」
・アレン『「原因」と「結果」の法則』
・アトキンソン『引き寄せの法則』
・自分を変えれば世界が変わる「インサイド・アウト」
第3章 ポジティブであること
・牧師によるポジティブ・シンキングの福音
・「ポジティブ= 個人の結果責任」への転化
・それでも人は、楽天的な方がいい?
・ピール『積極的考え方の力』
・ジョンソン『チーズはどこへ消えた?』
第4章 「お金持ちになろう!」アメリカの成功哲学
・「金持ち指南」の自己啓発本
・アメリカ流現実主義「セールスマンになれ!」
・コンウェル『ダイヤモンドを探せ』
・オグ・マンディーノ『世界最強の商人』
・この世のすべては「売り物」である
第5章 年長者が人生を説く父から息子への手紙
・18世紀イギリス貴族の父から息子への手紙
・なぜ父は息子・娘に手紙を書くのか
・ウォード『ビジネスマンの父より息子への30通の手紙』
第6章 日めくり式自己啓発本
・フランクリン『プーア・リチャードの暦』
・ウーマン・リブ時代の日めくり式自己啓発本
・ガーウェイン『マインド・カレンダー』
・シンプルな豊かさを求める
・ヘンリー・デヴィッド・ソローの継承者たち
第7章 スポーツ界の自己啓発本
・立身出世からダイエットへの転換
・ジョギング・ワークアウトの登場
・ジェーン・フォンダ『ジェーン・フォンダのワークアウト』
・ガルウェイ『インナーゲーム』
・ビジネス・コーチング系自己啓発本の登場
第8章 自己啓発本界のトホホな面々
コラム
日本版 父から息子への手紙『君たちはどう生きるか』
日本の日めくり式自己啓発本の傑作『日めくり まいにち、修造!』
日本のサッカー/野球系自己啓発本 ほか
付:年表〈アメリカ・日本の自己啓発本〉