2023年3月14日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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尾崎 俊介 著 | 『14歳からの自己啓発』 | トランスビュー | 2023 |
【梗概】
タイトルが紛らわしいので、最初に一言お断りしておかなければならないのだが、本書はこれ自体が自己啓発本なのではなく、「自己啓発本とは何か」を論じ、主だった自己啓発本を紹介した解説書である。そもそも自己啓発本というのはアメリカ発祥の文学ジャンルなので、その意味では一風変わったアメリカ大衆文学史でもある。
ちなみに、敢えて「大衆文学」と冠を付けたのは、自己啓発本が売れる文学であるからだ。書店の自己啓発本のコーナーに行けば、これがいかに活況を呈している文学ジャンルであるかはすぐにわかる。が、その評判はというと、今のところ、すこぶる悪い。試みに「自己啓発本 無駄」などのキーワードでネット検索すると、この文学ジャンルがいかに低評価であるか窺い知ることができる。つまり自己啓発本の世界は、大勢の「読む人」と、大勢の「馬鹿にする人」で成り立っているのである。無論、アカデミズムは後者の立場に立つ――ひとり天邪鬼の私を除いて。
なぜ私が、アカデミズムからは一顧だにされない自己啓発本の研究をしているかというと、この文学ジャンルには恐ろしいほどの力があると思っているからである。たとえばアメリカ初の(つまり世界初の)自己啓発本たる『ベンジャミン・フランクリン自伝』が、アメリカの近代化に大きな役割を果たしたこともその一例。否、アメリカだけではない。日本がごく短期間に近代化を果たすことができたのは、日本初の自己啓発本たる福沢諭吉の『学問のすゝめ』と、中村正直が訳したスコットランド発祥の自己啓発本『西国立志編』のお陰だったのではないのか? あるいは聖書もまた一つの自己啓発本だと見做すならば(実際にそうだが)、その力を疑う方が難しくはないだろうか? 人を動かし、国を動かし、歴史を動かす力のある文学、それが自己啓発本なのだ。
文学ジャンルは、それがどんなものであれ、玉石混交である。自己啓発本も、凄まじいまでに玉石混交だ。しかし、石ではなく玉の方を選んで拾っていけば、そこにきらびやかな自己啓発本の文学史が出現する。それに気づかぬまま、先入観から見下し、無関心のまま素通りするのはいかにも惜しい。
そんな思いから、自分なりの「自己啓発本文学史」を構築してみようと思い立ち、書き上げたのが本書である。本書が相手にするのは、ソクラテスから松岡修造まで、ニューソートからマインドフルネスまで、死後の世界から学校カーストの在り様まで、時間的にも空間的にもとんでもない振れ幅をもった話題群。無論、そうである以上、粗放のそしりは免れないと覚悟はしているが、しかし、これを読めば、少なくとも自己啓発本なるものの面白さが一体どこにあるのかということだけは、わかっていただけるのではないかと自負している。
ものは試し、まずは騙されたと思って、手に取っていただければ幸いである。
【目次】
十四歳のあなたに――前書きに代えて
第1章 自己啓発本とは何か
JKB(=自己啓発本)とは何か?
リンゴの木と共に広まったスウェーデンボルグ主義
アメリカの顔 ベンジャミン・フランクリン
アメリカ初(=世界初)の自己啓発本の中身
昭憲皇太后と福沢諭吉
JKBが普及する条件
自助努力する国は栄える
第2章 「自助努力系自己啓発本」の系譜
インサイド・アウトの「静かな革命」
もう一人の巨人:アンドリュー・カーネギー
「JKBライター」の誕生
サミュエル・スマイルズと『自助論』
アメリカ版スマイルズ:ラッセル・コンウェルの『ダイヤモンドを探せ』
自助努力系JKBの系譜
二十世紀最大・最良の自助努力系JKB:『7つの習慣』
第3章 「引き寄せ系JKB」の登場
引き寄せの法則
フィニアス・クインビーと「キリストの科学」
精神療法の流行
エマソン登場
ニューソート——新しい考え方
精神療法/ニューソートから「引き寄せの法則」へ
チャールズ・ハアネルと「ビル・ゲイツ伝説」
ウォレス・ワトルズの『金持ちになる科学』
ジェームズ・アレンの『「原因」と「結果」の法則』
百花繚乱! 引き寄せ系JKBの系譜
ロンダ・バーンの役割
第4章 引き寄せの実践
過激化する引き寄せ系JKB
量子力学と「引き寄せの法則」
「引き寄せの法則」の実践作法
本当に引き寄せることはできるのか?
それでも願いは叶う
「引き寄せの法則」に対する批判
世界は変えられない、変えられるのは自分だけ
第5章 人間関係をめぐる自己啓発本
「起業」から「出世」へ
デール・カーネギーの登場
名著『人を動かす』誕生秘話
デール・カーネギーの「黄金律」
アルフレッド・アドラーの至言
トーマス・A・ハリスの『幸福になる関係、壊れていく関係』
目指すところは同じ「私はOK、あなたもOK」
第6章 女子のための自己啓発本
二重らせん構造のJKB
「学校」という名の階層社会
女性が落ちる「自信のなさ」という落とし穴
なぜ女性は自信(=自己肯定感)を持てないのか?
「自信」は後からやってくるものではない!
第7章 愛するとは許すこと――めくるめく「ACIM」の宇宙観
いかに「許す」か
『奇跡のコース』が教えること
人間の「自由意志」を神は見ているだけ
あなたは、許せるか?
第8章 来世があると考えると、勇気が湧いて来る⁉
死を怖れなかったソクラテス
キューブラー=ロスの死生学と死後生研究
レイモンド・A・ムーディ・ジュニアが証明した「死後の生」
臨死体験の自己啓発効果
「前世記憶」と「生まれ変わり」
生まれ変わりを想定すると、何が変わるのか?
第9章 「今、ここ」を生きる
勇気のつけ方
自己啓発思想における「今、実はここ」
アメリカに伝わった東洋の神秘
迷走する瞑想ブーム
ホセ・シルヴァ・マインドコントロール法
鈴木俊隆が伝えた「坐禅」
チクセントミハイの「フロー理論」
「マインドフルネス」の登場とティク・ナット・ハン
「今、ここ」を生きる
自己啓発思想の「バルス!」――結びに代えて