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2024年10月20日

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著者名 書名 出版社 出版年
永嶋友 『第二次世界大戦期イギリスのラジオと二つの戦争文化——BBC、プロパガンダ、モダニズム』 慶應義塾大学出版会 2024年

【概要】
 本書は、第二次世界大戦期イギリスの二つの戦争文化の枠組みの中で、同時期の演説、プロパガンダ映画、小説、そして、ラジオフィーチャー、ラジオドラマ、ラジオ向き(レイディオジェニック)小説を論じる。アーカイヴ調査を土台とする多くのラジオモダニズム研究と同様に、BBC文書保管センター所蔵のアーカイヴ資料をもとに、第二次大戦期のラジオ作品の歴史的記述と考察を行なった。その中で、ラジオモダニズム作家一人を取り上げる研究とは対照的に、多くの作家やプロデューサーに触れた。詩人でBBC脚本家兼プロデューサーのルイ・マクニース、小説家でBBCの短期契約脚本家だったジェイムズ・ハンリー、BBCプロデューサーで一九三四年から一九六四年までBBCフィーチャー課長だったロレンス・ギリアム、文芸批評家・詩人でBBCの短期契約編集者だったウィリアム・エンプソン、詩人でBBC脚本家兼プロデューサーのD・G・ブライドソンらがその例である。多数の作家やプロデューサーを扱うのは、本書が、彼ら彼女らが従事した多数のBBCラジオフィーチャーシリーズに重点を置いているからでもある。
 本書は、第二次大戦期イギリスの歴史・プロパガンダ研究者がしばしば見逃してきた次の二点を明らかにすることを目標にした。一つ目は、第二次大戦期イギリスのラジオ作品がイギリスの戦争努力において果たしたプロパガンダ的役割である。二つ目は、第二次大戦期イギリスのラジオ作品が同時期のイギリスの戦争文化をどのように反映しているか、である。第二次大戦期イギリスのラジオ作品の考察には〈公式戦争文化〉(the official war culture)と〈非公式戦争文化〉(the unofficial war culture)という枠組みを用いた。〈公式文化〉は指揮官が俯瞰するような視点で、戦争努力を重ねる市民、兵士たち、彼ら彼女らの戦闘を描いた。〈非公式文化〉は、〈公式文化〉の影で、優位な物語を自意識的に拒否し、砕け散った心、空虚な感情、重い憂鬱、甚大な被害や荒廃、共同体の価値観からの逸脱、社会の混乱や亀裂、社会に対する恐怖や風刺などを表わした。ただし〈公式文化〉/〈非公式文化〉は両極にあるのではなく、程度の差こそあるが、互いに浸透し、影響し合っている。戦争文化研究において、第二次大戦期イギリスのラジオ作品は軽視される傾向にあり、本書はその点を大いに補完することを意図した。
 本論の各章は、第二次大戦期イギリスの演説、プロパガンダ映画、小説、ラジオ作品が扱う主題ごとに分かれている。各章は初めに、それぞれの主題に関する〈公式文化〉を確認するために、当時の二大演説家チャーチルとプリーストリーの演説、また、当時人びとに広く浸透していたプロパガンダ映画を考察した。その後〈公式文化〉を表わすBBCラジオフィーチャー/ドラマから〈公式文化〉と〈非公式文化〉の両方を反映するBBCラジオフィーチャー/ドラマや〈非公式文化〉を表わすラジオ向き小説へと議論を進めた。

【目次】
序 章
〈公式文化〉と〈非公式文化〉
第二次世界大戦期のラジオ放送、BBC、ラジオフィーチャー・ラジオドラマ
ラジオフィーチャー、ラジオドラマ、モダニズム
ルイ・マクニース——二文化仲介の成功者
ジェイムズ・ハンリー——二文化仲介の失敗者

第1章 国内戦線
第二次世界大戦初期の国内戦線に関する演説と映画
『国内戦線』、『頑張ってやりなさい(ゴー・トゥ・イット)』
『わたしたちが護る土地』
空襲下の国内戦線に関する演説と映画
『石たちは叫び出す』
「ロンドン地下鉄観光ツアー」
空襲下の人びとの夢、幻、孤独
「危険への回帰」
『ノー・ダイレクションズ』

第2章 海事
海事に関する演説と映画
『王の船』
『海軍が来たぞ』
『フリーダム・フェリー』
『海』
『船乗りの歌』

第3章 敵国
ドイツに関する演説と映画
『鉤十字の影』
『大気中の戦い』
イタリアと日本に関する演説と映画
『独裁者の流儀』
『日本は世界を欲する』
『黒の画廊(ブラック・ギャラリー)』

第4章 国際関係
国際関係に関する演説と映画
「帝国の返答」、一九四〇年版「戦友たち」、一九四一年版「戦友たち」
『クリストファー・コロンブス』
『イギリスからアメリカへ』
『建設者たち』

終 章
空と未来の社会
第二次世界大戦後のBBC ラジオフィーチャーとラジオドラマ


謝辞
参考文献一覧
初出一覧
図版一覧
付録 第二次世界大戦期のBBCラジオ番組一覧
索引


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