2025年4月1日
会員著書案内著者名 | 署名 | 出版社 | 出版年 |
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松浦和宏 | 『喪失と死者:F. スコット・フィッツジェラルドの短編小説』 | 北海学園大学出版会 | 2025年 |
【梗概】
F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説には、喪失と死者のテーマが執拗なまでに繰り返し登場する。本書は、この現象の背景にある作家的主題を解き明かすことを目的とする。従来の研究では、フィッツジェラルドの長編小説が中心的に論じられ、短編作品は副次的なものとされがちだった。しかし、短編にこそ彼の文学の本質が凝縮されているのではないか。本書はその視点から、フィッツジェラルドの短編群を再評価する試みである。
『バビロン再訪』における過去への執着と償い、『ベンジャミン・バトンの奇妙な事件』に見られる時間の逆転と父子の関係、『冬の夢』と『グレート・ギャツビー』をつなぐ主題の連続性――本書はこれらの短編を丹念に分析し、フィッツジェラルドが生涯にわたって抱え続けた喪失の感覚と、彼にとっての「死者」の意味を読み解く。
本書は、文学研究者だけでなく、フィッツジェラルドの作品をより深く味わいたい一般読者にも開かれた一冊である。短編小説の魅力を再発見し、作家の心の奥底に潜むテーマを探る契機となるだろう。
【目次】
まえがき
1. 死してなお在りつづけるもの:“Babylon Revisited” と躊躇いの追悼
1.1 死者と抑圧
1.2 二重性
1.3 Charlie と作者
1.4 弔い
1.5 死者が引き起こす道義的責任
1.6 再訪する死者
2. 地中から作家を突き動かすもの:“The Curious Case of Benjamin Button” と父親殺し
2.1 埋葬された過去
2.2 父親
2.3 父親を巡る数奇な感情
3. ロストボールとドライバー:“Winter Dreams” とThe Great Gatsby の連続性
3.1 “Winter Dreams” とThe Great Gatsby
3.2 The Great Gatsby の“first draft” としての“Winter Dreams”
3.3 ゴルフクラブの「ドライバー」と「入れ替わり」
3.4 運転手(ドライバー)と「入れ替わり」
3.5 ロスト・ボール
3.6 物語の「入れ替わり」:繰り返される過去
4. 連続する喪失:フィッツジェラルド作品における終わりなき喪失
4.1 主題としての喪失
4.2 フィッツジェラルドと喪失
4.3 “Three Hours Between Planes” における喪失
4.4 他の作品における喪失
5. 漆黒の夜空が放つ光:“The Diamond as Big as the Ritz” における眩いDisillusion
5.1 失われたアメリカン・ドリーム
5.2 変容するアメリカと消えゆく夢
5.3 Double Vision とファンタジー
5.4 両極端の一致
5.5 失望がもたらす希望
おわりに
Notes
Works Cited
Index
初出一覧