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2025年3月6日

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著者名 書名 出版社 出版年
清川祥恵 『ウィリアム・モリスの夢——19世紀英文学における中世主義の理想と具現』 晃洋書房 2025年

【梗概】
 本書は、詩人ウィリアム・モリス(1834-96)の思想をヴィクトリア時代における「中世主義」(medievalism)という大きな文脈の中に位置づけ、その意義を再考するものである。19世紀のイギリスでは、ゴシック・リヴァイヴァルやオックスフォード運動に代表される復興運動が隆盛し、「近代化」によって貶められてきた「中世」の価値観が見直されつつあり、モリスも当時の社会への強い批判意識から、トマス・カーライル(1795-1881)やジョン・ラスキン(1819-1900)らの影響を受けて中世を理想の時代とした。しかし今日までモリスについては社会主義者やデザイナーとしての一面的な功績が評価されることがほとんどであり、中世主義者としての統合的な評価については十全に論じられてはいない。そこで本書では、モリスの文学作品にみられる中世描写を検討し、「フェローシップ」(fellowship)を鍵概念として、中世主義者モリスの独自性を論述した。
 モリスにとって、人々の「生の喜び」の表現としての芸術は、中世においては「大聖堂」という建築物によって象徴されたものであった。モリスは19世紀においてこの喜びを、書物の形で民衆に届けることを使命とした。つまり、読書は擬似的な「巡礼」である。「喜び」の具現たる芸術作品を過去の人々と共有し、さらには同時代人との「協働」によって新たに創り出すことは、モリスの考えるところの真実の連帯、すなわち「フェローシップ」で結ばれることを意味する。したがって今日芸術社会主義として理解されるモリスの思想は、このフェローシップの「大聖堂」への「巡礼」を目ざしたものであり、モリスはラスキンと同様「中世的価値の一般化」に寄与した中世主義者として、大きな役割を果たしたと言える。同時に、これを単に芸術として「昇華」するだけではなく、たゆまず日常生活のなかに存在するものとして主張しつづけたことが、詩人の思想の独自性の根幹を形成しているのである。

【目次】
略語
序論
第一章 「中世」の理想を旅する──中世主義の史的展開
 第一節 近代の悪夢への反応
 第二節 モリスへの影響
 第三節 ロマンスの力
第二章 「中世」の美しさを讃える──初期作品における憧憬
 第一節 D・G・ロセッティの「内なる詩」
 第二節 荒墟と幻影
 第三節 「夢」の伝統
第三章 「中世」の儚さを描く──『地上楽園』における弁明と幻視
 第一節 詩人の「弁明」
 第二節 魔術師の幻
 第三節 「硬い宝石のような焔」
第四章 「中世」という希望を紡ぐ──社会主義転向と詩人の「夢」
 第一節 社会主義ロマンスの萌芽
 第二節 フェローシップの予示
 第三節 敗北と希望
第五章 「中世」からめざめる──『ジョン・ボールの夢』における「フェローシップ」
 第一節 ユートピアの夢
 第二節 天国と地上の連帯
 第三節 夢からのめざめ
 第四節 フェローシップの記憶
 第五節 民衆の聖堂
 第六節 希望とヴィジョン
第六章 「中世」という未来へ──『ユートピアだより』における「ヴィジョン」
 第一節 中世的未来の夢
 第二節 中世に対する困惑
 第三節 未来世界における成長
 第四節 夢からヴィジョンへ
第七章 「中世」をかたどる──大聖堂、書物製作、ロマンス
 第一節 ケルムスコット・プレスと理想の書物
 第二節 後期ロマンスにおける理想の具現
 第三節 フェローシップの完成
結論
あとがき
参考文献
人名・団体名索引
事項索引

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