2023年3月2日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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川崎 明子 著 | 『人形とイギリス文学 ―ブロンテからロレンスまで』 | 春風社 | 2023 |
【梗概】
本書は、イギリスのビルドゥングスロマンにおいて、主人公が子ども時代に人形に対してとった行動や態度が、どう発展しどこに着地するかを考察するものである。その際、人間が情念を投影することで行う〈人形の人間化〉や、人間に対して行う〈非人間化〉や〈理想化〉等の〈人間の人形化〉に注目する。
第1章「人形を愛する ―シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』 人形ではなく人間として愛し愛されるまで」では、人間の代理としてぼろぼろの人形を愛玩していたジェインが、ロチェスターとの関係において、〈人形化/非人間化〉されることなく、人間として愛し愛されることを実現するまでの軌跡をたどる。
第2章「人形を埋める ―チャールズ・ディケンズ『荒涼館』 鏡/鑑としての人形」では、エスターが結末で『荒涼館』に登場する三種の人形 ―抱っこするサイズの〈人形〉、〈人形の家〉に付属する小さな人形、人に操作される〈指人形〉― のイメージを一身に収斂するまでの過程を、ウィニコットの理論も援用して考察する。
第3章「人形を罰する ―ジョージ・エリオット『フロス河の水車場』 少女がふるう暴力」では、マギーが愛玩する人形、暴力をふるう人形、トムが恩師の娘に贈るオランダ人形、妻の比喩としてのオランダ人形の四種の人形が、マギーの発展とどう呼応するかを、当時のジェンダー規範が規定するマギーの精神性に着目しながら考察する。
第4章「人形に話す ―フランシス・ホジソン・バーネット『小公女』 人形エミリーの退場と女王セーラの入場」においては、父の不在を克服するという重要な役割を担う人形エミリーがなぜ途中から出てこなくなるのかという問題を、人間にあって人形にはない食欲と言語能力に注目して考察する。
第5章「人形で遊ぶ ―H・G・ウェルズ『トーノ・バンゲイ』 ドールハウスを出て大海へ」においては、子ども時代に貴族の娘ビアトリスと豪奢なドールハウスで遊んだ体験が、大人になってからのジョージの思考にどう影響するかを、サイズの概念、家の構造や内外の概念、役柄についての概念の三点に絞り考察する。
第6章「人形を燃やす ―D・H・ロレンス『息子と恋人』 ポール/パウロと〈犠牲〉の終わり」は、ポールと〈犠牲〉の関係を分析する。使徒パウロと〈犠牲〉の関連を確認後、ガートルードが赤子ポールを太陽に捧げて〈犠牲〉と関連づける場面や、少年ポールが人形を燃やして〈犠牲〉に捧げる場面を分析し、成長したポールが〈犠牲〉を志向するミリアムやクララを退け、母に関する自己犠牲も回避し、母の死後〈犠牲〉との関連を解除し、自身の生を選択するまでの過程をたどる。
【目次】
序章 人形はどこへ行った
第一章 人形を愛する ―シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
人形ではなく人間として愛し愛されるまで
第二章 人形を埋める ―チャールズ・ディケンズ『荒涼館』
鏡/鑑としての人形
第三章 人形を罰する ―ジョージ・エリオット『フロス河の水車場』
少女がふるう暴力
第四章 人形に話す ―フランシス・ホジソン・バーネット『小公女』
人形エミリーの退場と女王セーラの入場
第五章 人形で遊ぶ ―H・G・ウェルズ『トーノ・バンゲイ』
ドールハウスを出て大海へ
第六章 人形を燃やす ―D・H・ロレンス『息子と恋人』
ポール/パウロと〈犠牲〉の終わり
終章 人形はどこへも行かない
参考文献一覧
あとがき
人名索引
事項索引