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2023年11月17日

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著者名 書名 出版社 出版年
加藤洋介 『ジョン・バンヴィルの本棚――伝統と個人の才能』 開文社 2023


【梗概】
 ジョン・バンヴィルは同時代の英語文学を代表する小説家であり、毎年ノーベル文学賞の候補に挙げられるなど高い評価を得る。稀代の読書家、書評家でもあり、その読書範囲は驚くほど広く、文学だけでなく思想や美術や文化史の領域にも及ぶ。彼のテクストを読もうとすると、広範囲の教養が求められ、哲学や美術の知識が必要になる。そこで良質の案内と解釈を提供することをねらって、本書は編まれた。日本語で書かれた最初の本格的なバンヴィル論である。
 本書は、彼の重厚な知的世界を構成する古典9冊――プラトン『国家』からサイファー『ルネサンス様式の四段階』まで――の短い解説を収め、バンヴィルの知の系譜と創作の方法を解説する。バンヴィルはなにを読み、過去の著作からどんな世界観をとり込んだか。それは彼の意識のなかでどう変容し、彼の文学世界を構成するか。古典と彼の創作の関係に光をあて、同時代文学の前線で起きていることを報告する。シェイクスピア、ルイス・キャロル、T・S・エリオット、ジェイムズ・ジョイス、サミュエル・ベケットなどの文学の影響を論じ、また、ニーチェ、フロイト、スタイナー、ハイデガーなどバンヴィルの思想の系譜を語り、バンヴィルの小説の解釈をめぐって議論を展開する。
 まず、20世紀に生産された文学理論とバンヴィルの創作の関係を論じる序論があり、彼に影響を与えた文学理論に触れ、彼の思想の系譜を概説する。彼の語り手たちはしばしば人生を回顧し、記憶を語り、複雑な記憶と結びついた言語を用いる。序論は、彼の言語観と1920年代のケンブリッジ英文学の言語理論に類似が認められることを語り、彼の独自の美学がケンブリッジ英文学に影響を受けたことを論じる。
 つづく第1章は、バンヴィルの主要な対談を収録した『ジョン・バンヴィルとの対話』から彼自身が語る小説観と美学をとり出し、彼の創作の意図を解説する。論点は主に、彼自身が詩のような濃密な文章と語る言語の実践、ジョージ・スタイナーのイデオレクト(個人言語)の観念に影響された言語観、精神分析が論じる本質的自我のようなものは存在しないと断言する彼の独自の人間観である。それぞれについて、彼が対談で語る内容を引用し、解説し、彼の文学を理解するための枠組みを構築する。
 第1章でバンヴィルの創作の基底に家庭を探求する衝動があることを見たあと、つづく数章で彼の主人公たちが家庭を求めて放浪することを論じる。バンヴィルは1989年に『事実の供述書』を発表し、『亡霊たち』と『アテーナ』につづく連作、いわゆる美術三部作を創作した。それぞれに絵画があらわれ、物語は表象の問題をめぐって展開するが、主人公は絵画や鏡が象徴的に構成する表象の世界に幻滅し、家庭を見つけたいと願う。が、彼はしだいに表象の世界の疎外と孤独に直面し、苦悩を深め、家庭を求めて放浪する。第2章から第4章はこの放浪の考察である。第7章で扱う『海』で、表象の世界に対する主人公の幻滅はもっと明確にあらわれ、彼が家庭を探求することがはじめに示される。しかし、彼は最後までそれを見つけられない。現実世界でそれを見つけられないから、言語をつかってそれを創出しなければならない。だからバンヴィルの語り手たちは語り、テクストを生産する。そうして彼らは逆説的に表象の世界に戻る。この逆説と矛盾の表現が、アレクサンダー・クリーヴ連作の主題であり、第6章と第8章でそれを論じる。最終的に、バンヴィルはハイデガーの家庭の観念にその解決策を見つける。それを論じるのが第9章、『青いギター』の論考である。


【目次】
バンヴィル主要著作一覧
序論――バンヴィルの創作と文学理論
1 バンヴィルの美学と言語――『ジョン・バンヴィルとの対話』
  本棚① オグデン/リチャーズ『意味の意味』
2 監獄の視点――『事実の供述書』
  本棚② ニーチェ「道徳外の意味における真実と虚偽について」
3 バンヴィルの演劇の比喩――『亡霊たち』
  本棚③ シェイクスピア『テンペスト』
4 迷宮としての世界――『アテーナ』
  本棚④ フロイト「不気味なもの」
5 非現実の都市――『プラハの映像』
  本棚⑤ エリオット『荒地』
6 鏡のなかの劇場――『日食』
  本棚⑥ キャロル『鏡の国のアリス』
7 動く視点――『海』
  本棚⑦ サイファー『ルネサンス様式の四段階』
8 影を模倣する芸術――『遠い過去の光』
  本棚⑧ プラトン『国家』
9 世界は記憶のなかに――『青いギター』
  本棚⑨ スタイナー『ハイデガー』
あとがき
索引


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