cover art

2024年6月24日

会員著書案内
著者名 書名 出版社 出版年
金子幸男、藤田憲司、真田満、水口陽子編著 『テクスト批評の実践―英語圏文学・映画・漫画』 音羽書房鶴見書店 2024

【梗概】
 本書は、批評理論を物語テクスト(英語圏小説・映画・漫画)に適用した実践の書であり、その目的は、難解な現代批評理論を平易に解説しながら具体的なテクストを読み解き、その面白さを味わうこと、引き出すことにある。平易さを強調したのは関西批評理論研究会の20年にわたる活動の中で理論的思想家の行き過ぎた難解さに疑問をもち、昨今、不人気という人文学からさらに読者が離れてしまうのではないかと危惧したからである。読者層としては日本の大学で英語圏文学・文化を勉強している学部生、大学院生、研究者、関心のある一般読者に設定した。以下に各論文の要旨を短くまとめてみる。

・藤田憲司論文:ジュディス・バトラーの身体論に着想を得て、一八世紀の機械論と身体の問題に焦点をあて、劇作『ポリー』分析している。解剖学の言説と「食」という象徴的カニバリズムの言説をひもとき、身体の「肉化」が露わとなる。
・佐藤エリ論文:マルクス主義フェミニズムが指摘した「市場」と「家庭」の「相互依存関係」を軸に、ジョージ・エリオットの『ミドルマーチ』におけるメアリ・ガースと彼女の家族が、二領域の境界線を取りはらうことを明らかにする。
・金子幸男論文:ドイルの『四つの署名』という、インド大反乱の際の財宝略奪とそれが宗主国イギリスにもたらした騒動に取り組むホームズの物語を、ポストコロニアル理論を使い、イングリッシュネスという観点から読み解く。
・谷綾子論文:『ドラキュラ』において、ジョナサン・ハーカーがドラキュラと分身の関係であることに着目し、ユング理論を用いて、ハーカーが自身の無意識に潜む悪を具現化した存在であるドラキュラを融合していく過程について検証する。
・原田寛子論文:カズオ・イシグロの『クララとお日さま』において、ポストヒューマンという概念に着目し、自然と文化の両方の価値観を備えるポストヒューマン的主体を持つ主人公であるAIロボットのクララが示す人間のあり方を探る。
・真田満論文:ディプティクとよばれるメルヴィルの短編三作品は、英米を舞台にして、自由や平等を理念とするアメリカの貧困や経済格差への批判が織り込まれている。本論はこれら三作を、マルクス主義批評の視点から論じた。
・水口陽子論文:ライカートの映画における女性の困難をジェンダー批評、ネイティブ表象をポストコロニアル批評を用いて考察した。「スローシネマ」の美学・政治性に着目し、資本主義により拡大する格差への優れた社会批評として評価した。
・藤田眞弓論文:アディーチェ作品の「語り」を分析し、「結婚の世話人」は「私」の個人的な移民の現実が一人称で、「シーリング」はナイジェリアの現状とネオコロニアリズムの問題が三人称で効果的に語られていることを示した。
・山内政樹論文:漫画『デスノート』において夜神月が、どのように自身が理想とする世界をデスノートを用いて形成していくのかを、ミシェル・フーコーの『監獄の誕生』で描かれる規律型の社会形成に着目しながら分析する。

【目次】
まえがき・・・・・金子 幸男

語りが構築する身体・生――ジョン・ゲイ『ポリー』を中心にして――・・・・藤田 憲司
●用語解説 指示対象
●コラム  ジュディス・バトラー

階級を取りはらう女性たち――マルクス主義フェミニズムで読む 『ミドルマーチ』 ガース一家の物語――・・・・佐藤 エリ
●用語解説 再生産労働
●コラム  マルクス主義フェミニズム

『四つの署名』におけるホーム、中心と周辺――ポストコロニアルな読みとイングリッシュネス――・・・・金子 幸男
●用語解説 イングリッシュネス
●コラム  ポストコロニアリズム

ユングで読む『ドラキュラ』――影とアニマ――・・・・谷 綾子
●用語解説 影/アニマ
●コラム  ユング

「心」 を探す物語――カズオ・イシグロの 『クララとお日さま』 におけるポストヒューマン――・・・・原田 寛子
●コラム  ポストヒューマン

メルヴィルのディプティク作品における不可視のイデオロギー・・・・真田 満
●用語解説 生政治
●コラム  マルクス主義批評

家を建てる女と運転する女たち――スローシネマと周縁へのまなざしとしてのライカート 『ライフ・ゴーズ・オン』――・・・・水口 陽子
●コラム  フェミニズム、ジェンダー、クイア批評 (水口陽子)
●コラム  エコクリティシズム (浅井千晶)

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェの短篇を読む――語り、視点、コロニアリズム――・・・・藤田 眞弓
●用語解説 シングルストーリー/ネオコロニアリズム
●コラム  脱植民地化以後のポストコロニアリズム

『デスノート』 における規律型社会――夜神月の目指す新世界――・・・・山内 政樹
●用語解説 パノプティコン型の監視社会/エピステーメ
●コラム  ミシェル・フーコー

あとがき・・・・・金子 幸男、藤田 憲司、真田 満、水口 陽子

トップページに戻る