2024年4月10日
会員著書案内著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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橋本賢二 著 | 『MY BEST ソール・ベロー』 | 大阪教育図書 | 2024 |
【梗概】
好きなものの魅力を探る。そんなスタンスで眺めたノーベル賞作家ソール・ベローの作品群。いくつか読むうちにアメリカ文学が身近になってくる。
気楽で有益な関連エッセイ多数。「立ってするか、座ってするか:世界のトイレ事情」ほか
ソール・ベロー(Saul Bellow, 1915-2005)はよく「二十世紀後半におけるアメリカ文学の屋台骨(バックボーン)」と評される。八九歳で亡くなるまで長きにわたりアメリカ文学界を牽引してきた、まさに現代アメリカ文学を代表する作家である。ベローの作品が読んで面白いかどうかは、人の好みや求めるものに関する判断により分かれるだろう。単なる娯楽性を追求した作品ではないので、いくらか退屈な面があるのは否めない。しかし単なる楽しいだけの娯楽作品なら今の時代には飽きるほどある。確かに読んでいて楽しいものも読書であるが、読書にはまた別の目的もある。しっかり言語を用いて深く知性や感情を描き込んだ文学作品には娯楽作品もかなわない深みがあり、視覚だけでは伝えきれない理性や知性にも訴えかける圧倒的な力がある。また読者自身が抱えている悩める気持ちの解決策がそこにあるかもしれない。道標なき混沌とした今を生きるためにはそんな要素も必要なはずである。それゆえにそれらの作品は、今後も時間の試練に耐えて生き延びていく可能性をはらんでいる。この本はこれまでにそのような視点からソール・ベローの作品について書いてきたものを一冊にまとめたものである。編集方針はソール・ベローの全作品を均等に紹介し等しく論じていく手法ではなく、ベローの作品総体の中で気になって読んだものの中からさらに強く心を惹かれた作品に限定して、深く論じていく手法を採っている。心をとらえた好きなものだけをピックアップしてそのいいところをうまく伝えるというのが私がこれまで取ってきて、もっともうまく機能してきたスタンスなので、ここでもその流れを踏襲した。
ソール・ベローの描く世界は何度読んでもまだ見えていない新たな側面を有し続け、時を経て読み返すたびに、また新しい自分を発見する要素に満ちあふれている。
【目次】
まえがき
・「朝方のひとりごと二題」――フリーターとニートに贈るベロー文学からのメッセージ
・立ってするか、座ってするか――トイレ事情とベロー文学
・『宙ぶらりんの男』研究――闇の中の魂
・「グリーン氏を探し求めて」――見つけたものと現実と
・「未来の父親」――現世回帰への歩み
・ベロー研究における実学
・「壊し屋」――「演じてみせること」と「語って示すこと」
・『この日をつかめ』――現代アメリカの一断面
・ベローの西部――『黄色い家の遺贈』より
・ヘティーの遺産
・「黄色い家の遺贈」――ハティのみつめた死と生
・『雨の王ヘンダソン』――ベローが描くアフリカの意味
・ベローと京都と
・「銀製の皿」――父が盗んだものと教えたこと
・「ゼットランド」に読むベローのシカゴ VS ニューヨーク
・ソール・ベロー:世紀末の展開――『盗み』から『ほんとうの人』へ
・シカゴのベロー
・『ほんとうの人』:多面的検証
・「セント・ローレンス川のほとりで」――ソール・ベローの人物造形と表現力
・イアン・マキューアンの見たソール・ベロー
・『ラベルスタイン』――ソール・ベロー最後の小説の形態
あとがき