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著者名 書名 出版社 出版年
矢野奈々 『『ダーク・ヒロイン』ジョージ・エリオットと新しい女性像』 彩流社 2017

【梗概】
 金髪・青い目の「フェア」に対して、黒髪で黒い目の「ダーク」なヒロインたち。ジョージ・エリオットは果たして彼女らに何を託したのか?ヴィクトリア朝において女性の鑑として好まれた「フェア・ヒロイン」に対してダークな女性をヒロインに据えたエリオットの作品を探っていく。外見に加え、内面の「ダーク」にも着目し、ジャネット(『牧師たちの物語』)、マギー(『フロス河の水車場』)、ロモラ(『ロモラ』)、ドロシア(『ミドルマーチ』)、グウェンドレン(『ダニエル・デロンダ』)らを取り上げて、「新しい女」と「女性らしさ」のあいだに揺れるヒロインを読み解く。
 本書の目的は、エリオットが小説において登場させているこの「ダーク・ヒロイン」たちが、ヴィクトリア朝の社会通念の理想として掲げる「家庭の天使」像から逸脱しつつも、「公的領域」に完全には踏み込んでいないまま、新たな「女性らしさ」を模索して、男性との新たな人間関係を築いていこうとするヒロインとして描かれていることを論証することにある。
 第一部では、家庭という「私的領域」に留まらずに、その枠から脱出しようとするダーク・ヒロインの姿を分析する。小説における細密画や黒髪の役割、ヒロインの魔性性を検証する。  第二部では、男性の領域に踏み込んでいく女性たちを分析する。『ロモラ』の中で、サヴォナローラの分身的な側面を持ち、男装をしたりするロモラや、紳士服とされていた「黒服」を着用することで、男性の領域に侵入していく『アダム・ビード』のダイナ、『急進主義者フィーリクス・ホルト』のトランサム夫人、『ミドルマーチ』のバルストロード夫人、『ダニエル・デロンダ』のグウェンドレンの姿を追っていく。
 第三部では、男性の領域に侵入していくヒロインたちが直面する男女間における二項対立について、エリオットが作品世界において文学的にどのような対処をしたのかということを水のイメージを通して検証する。

【目次】
  (序章)
    第一節 本書の目的と問題設定
    第二節 先行研究と本書の位置付け
  第一部 天使vs. 悪魔の解消――女性像における二項対立
  (第一章) 枠の崩壊と「家庭の天使」の消滅
    第一節 壁に囲われた「家庭の天使」――「エイモス・バートン師の悲運」のミリー
    第二節 激情と細密画の破壊――「ギルフィル師の恋」のカテリーナ
    第三節 絵から抜け出すヒロインたち――『ミドルマーチ』のドロシアを中心に
  (第二章)「黒髪」に見る伝統からの逸脱
    第一節 「ダーク・ヒロイン」の原型――「ジャネットの悔悟」のジャネット
    第二節 対比と同質性――『アダム・ビード』におけるヘティ―とダイナ
    第三節 異端者の反抗――『フロス河の水車場』の黒髪マギー
  (第三章) 「ダーク・ヒロイン」たちの魔性性
    第一節 分身としての衣服と「メデューサ」と化すジャネット
    第二節 魔女狩りの犠牲となった「賢い女」――『フロス河の水車場』のマギー
    第三節 蛇と肥大化したメデューサ――『ダニエル・デロンダ』のグウェンドレン
第二部 男性の領域に侵入していく女性
  (第四章) パラドックスの「ダーク・ヒロイン」の誕生
    第一節 ロモラの光と闇――フィレンツェを体現する「矛盾の織物」
    第二節 「服従の神聖」と「反抗の神聖」
    第三節 サヴォナローラの分身としての男装するロモラ
  (第五章) 黒服を着る女性たち――従属性からの解放
    第一節 『アダム・ビード』におけるメソジスト派の説教師としてのダイナ
    第二節 支配欲と権力志向――『急進主義者フィーリクス・ホルト』のトランサム夫人
    第三節 「情報伝達」としての黒服――『ミドルマーチ』と『ダニエル・デロンダ』
第三部 新たな「女性らしさ」の模索と男性との「共存」に向けて
  (第六章)水のイメージと新たな旅立ち―ジェンダーの二項対立解消への期待と不安
    第一節 水の「危険性」と「再生」――「ジャネットの悔悟」
    第二節 悪のヒロインの影響力――『アダム・ビード』のヘティ―と水
    第三節 悔悛と洗礼――『フロス河の水車場』と洗礼の水
    第四節 「新しい女」と「最良の女」――『ダニエル・デロンダ』(T)
    第五節 性差におけるボーダーレス世界――『ダニエル・デロンダ』(U)
  (終章)
主要参考文献一覧
あとがき
索引

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