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著者名 書名 出版社 出版年
高梨 良夫 『エマソンの思想の形成と展開 ― 朱子の教義との比較的考察』 金星堂 2011年
【内容】

本書の目的は、エマソンの思想の特質を、新儒教、特に中国の新儒教の思想家朱子の教義との比較的考察を通じてより明確に示そうとすることにある。

序章の第一節では、ヒンズー教、仏教(特に禅仏教)とエマソンの思想の関係について概説し、「四書」が、どの程度までエマソンに影響を及ぼしているかを検証した。第二節では、宋学を形成した北宋時代の儒家、宋学を大成した朱子、朱子の批判者としての陸象山、王陽明の教義を紹介しながら、新儒教の教義の形成と展開について概説した。また第三節では、明治・大正期の日本の知識人・文学者達が、いかにしてエマソンの思想と新儒教の教義との間に類似性を見出したのかについて考察した。さらに第四節では、陸象山、王陽明の「心即理」説、朱子の「性即理」説とエマソンの思想の関連についてそれぞれ論じた。

第一章では、エマソンの青年時代の思想の形成に焦点を当て、自己の探究と実現についてのエマソンの思想と朱子の教義の比較的考察を試みている。第一節では、エマソンの理想的人間像、正統的キリスト教からの離脱についての考察を試みる前提として、牧師から講演者への移行の問題を考察している。第二節では、エマソンのイエス・学者・偉人・詩人観の形成について論じると共に、「聖人」と「学者(スカラー)」、第三節では、「心」と「魂(ソウル)」をめぐって、性善と悪、自己の二重性、第四節では、「自己(セルフ・)信頼(リライアンス)」の教義の形成について論じると共に、「克己復礼」と「自己信頼」、自由と運命についての比較的考察を試みている。

第二章では、両思想家が、宇宙自然と人間倫理とに統一的な原理を求めている点についての考察を深めている。第一節では、心と事物の双方における「知」と「徳」の探究をめぐる「格物致知」と「照応(コレスポンデンス)」、言語観、第二節では、超越的世界に対する敬虔の心情としての「敬」と「道徳的(モラル・)情感(センティメント)」、第三節では、万物の生成と生命の根源的原理、人間道徳・倫理の根源的規範としての「道」と「道徳の法(モラル・ロー)」について論じ、第四節では、「償い(コンペンセイション)」の教義の形成について論じると共に、「福善禍淫」と「償い」、「陰陽」と「極性(ポラリティ)」、第五節では、個人と共同体との関係をめぐって比較的考察を試みている。

第三章では、世界の根源的原理と生成という存在論の視点から、両思想家の教義の根幹的概念について考察している。第一節では、宇宙自然と人間倫理の双方に適用される理法、究極者概念としての「天理」と「普遍的統一者(ユニティ・ユニヴァーサル)」、第二節では、普遍的・超越的な知的・道徳的原理としての「理」と「理性(リーズン)」、第三節では、自然万物の根源的原理であると同時に実践道徳的原理でもある「太極」と「大霊(オヴァ・ソウル)」、第四節では宇宙万物の形成と生成変化をめぐって、陰陽二気の働きによる「生生」と精神(スピリット)の「創造(クリエイション)」の働きによる「顕現(レヴェレイション)」についての比較的考察を試みながら、両者の思想の類似点、相違点について指摘している。

目次
はじめに
序章 エマソンと新儒教
 第一節 東洋思想とエマソン
 第二節 新儒教の形成と展開
 第三節 明治・大正期の日本人からみたエマソンの思想と新儒教の類似性
 第四節 新儒教とエマソン
第一章 自己の探究と実現
 第一節 牧師から講演者へ
 第二節 「聖人」と「学者」
 第三節 「心」と「魂」
第二章 「克己復礼」と「自己信頼」
第三章 宇宙自然と人間倫理
 第一節 「格物致知」と「照応」
 第二節 「敬」と「道徳的情感」
 第三節 「道」と「道徳の法」
 第四節 「福善禍淫」「償い」
 第五節 平天下と「平和」
第四章 世界の根源的原理と生成
 第一節 「天理」と「普遍的統一者」
 第二節 「理」と「理性」
 第三節 「太極」と「大霊」
 第四節 「生生」と「顕現」
おわりに
エマソン年譜

あとがき

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