著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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煖エ和子 | 『日本の英語教育における文学教材の可能性』 | ひつじ書房 | 2015年2月 |
本書は、近年、日本の英語教育から文学教材が減少した経緯を批判的に分析した上で、文学はコミュニケーション能力育成を目指す英語教育においても重要な教材であることを、理論と実践両面から示している。考察の対象は、おもに1980年代初頭頃から2000年代初頭頃までの期間に絞り、中学校・高等学校の英語教育にも目を向けながら、大学英語教育を中心に論じている。本書全体を通してもっとも強調したい点は、文学教材はオーセンティック(authentic)教材の1つであり、コミュニケーション能力育成を目指す現在の日本の英語教育でも、十分に活用できる教材だということである。
本書は序論、結論の他、7章から構成されている。各章の概要は以下の通りである。
・序論:日本の英語教育がコミュニケーション能力育成重視に変わった背景の下、文学教材が排除されてきた状況を説明。
・第1章:近年、日本の英語教育(中学校・高等学校・大学)ではどのような教材が使用されてきたかを分析。
・第2章:海外の外国語教育では、文学教材をあまり使用しない場合がある一方で、積極的に活用している場合もある点を説明。その上で、日本ではコミュニケーション能力育成を重視するようになったことと関連してオーセンティック教材が注目されるようになったが、同教材が狭義に解釈された結果、いわゆる「オーセンティック」教材から文学教材が排除されたと指摘。
・第3章:日本の英語教育では、なぜ文学教材を活用してこなかったのか、1980年代を中心とした歴史的背景を考察。
・第4章から第6章:“literariness”(Carter and Nash, 1990)・creativity・narrativityの観点から見ると、いわゆる「オーセンティック」教材と文学教材は対照的な教材ではないことを立証。加えて、creativity・narrativityを豊かに含んだ文学教材はコミュニケーション能力育成のために有益である点を踏まえると、文学教材を英語教育から排除してきたこれまでの日本の英語教育のあり方には、再考の余地が大いにあると主張。
Cf: Carter, Ronald, and Walter Nash. (1990). Seeing through Language: A Guide to Styles of English Writing. The Language Library Ser. Oxford: Basil Blackwell.
・第7章:中学・高等学校教員の声や、大学生の意見を踏まえ、文学を活用するための多彩な授業プランを紹介。コミュニケーション能力育成を目指す英語の授業で、文学教材を活用する実践例を提示。