会員著書案内
著者名  書名 出版社 出版年
関良子  The Rhetoric of Retelling Old Romances:
Medievalist Poetry by Alfred Tennyson and William Morris
英宝社 2015年
【梗概】

本書では、テニスンとモリスの中世主義詩を分析することで、19世紀イギリスの文学界・芸術界で隆盛をみた中世主義の実態の解明を試みる。中世主義に関する従来の研究は、中世主義を自明の文化事象と捉え、「現実の中世」と後世に「創造された中世」の異同に焦点を当てた研究に集中する傾向にあった。本書では中世主義(Medievalism)の対立概念としてヴィクトリア朝主義(Victorianism)つまり同時代主義を据え、中世主義が決して自明の事象ではなく、むしろ同時代の時代風潮を重んじる世論との軋轢の中に成立していたことを論証する。そして、テニスンとモリスを例に、彼らが共にトマス・マロリーの『アーサー王の死』の語り直しに始まり、中世への憧れと当時の同時代主義的な詩論との間に葛藤を感じながらも、やがて自身のロマンス語りのレトリックを体得するまでの過程を、通時的かつ共時的に考察する。

第1部第1章では両詩人の作品の考察に先立ち、19世紀中葉の文芸雑誌上に書かれた詩論を分析する。当時を「非-詩的(unpoetical)」な時代と表現したマシュー・アーノルドの言葉を出発点とし、その所以を雑誌文化の台頭というコンテクストの中で検討する。

第2部ではテニスンの『国王牧歌』(1859-85)を、作品の成立過程に沿って考察する。この手順で考察することで解明されるのは、テニスンが各創作段階で同時代的問題を意識した創作を行なっていることである。第2章で論じる初版(1859)では、騎士道ロマンスには珍しくヒロインに注目することによって社会での女性の役割が、第3章で論じる第二版(1869)では、聖杯探求のテーマに挑むことによって科学の発展による信仰のゆらぎが、それぞれ取り扱われている。第4章では、1885年に完成した『国王牧歌』全体を考察対象とし、作品に中世世界を再現させながら同時代的問題を取り扱う際、牧歌というジャンル選択がテニスン独自のロマンス語りのレトリックとして機能したことを指摘する。

第3部ではモリスの詩作を考察する。第5章・第6章で論じる『グィネヴィアの弁明』(1858)はテニスンの『国王牧歌』初版の創作時期と、第7章・第8章で論じる『地上楽園』(1868-70)は、『国王牧歌』第二版の創作時期と重なる。これにより、通時的・共時的考察が可能になる。モリスの場合、アーサー王ロマンスに基づく初期の詩作には実験的な態度が見られ、彼が先輩詩人からの影響を受けつつも、騎士道ロマンスの新しい表象の可能性を模索していたことが分かる。一方『地上楽園』では、独自のロマンス語りの世界を構築することで、時代風潮を偏重する社会から詩を引き離し、自律した唯美主義的な作品世界を繰り広げている。

中世ロマンスの中に同時代的問題意識を汲んだテニスンと、唯美主義的作品世界の創造に挑んだモリスが最終的に体得したそれぞれの中世主義詩を語るレトリックは、当時の芸術全般に対する二つの態度―芸術の社会的役割を強調する姿勢と芸術の自律性を求める姿勢―をも端的に表している。

【目次】
Acknowledgement
List of Figures
Abbreviations
INTRODUCTION
PART I PRELIMINARY
Chapter 1 The Function of Poetry in the Age of Periodical Criticism
PART II ALFRED TENNYSON
Chapter 2 Voicing Women in the First Idylls of the King
Chapter 3 The Holy Grail in the Shadow of Darwinism
Chapter 4 Selection of the Idyllic Genre: Rebuilding Camelot in Idylls of the King
PART III WILLIAM MORRIS
Chapter 5 Morris in the Discussion of the ‘Dramatic’: ‘The Defence of Guenevere’
Chapter 6 Morris in Apprenticeship: His Étude on the Arthurian Motif
Chapter 7 Romance, or the Sense of the Past in The Earthly Paradise
Chapter 8 Morris as a Storyteller: His Position in the Aesthetic Movement
CONCLUSION
Appendix A Tennyson’s Idylls of the King: A Chronology
Appendix B Morris’s The Earthly Paradise: The Structure
Bibliography
Index

トップページに戻る