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著者名 書名 出版社 出版年
三盃 隆一著 『謎と力―エリザベス朝悲劇の成立と変容』 英宝社 2016

【梗概】
 本書のタイトルは、『謎と力――エリザベス朝悲劇の成立と変容』ですが、シェイクスピアの悲劇作品の分析を中心に、彼の同時代劇作家であった、キッド、マーロウ、ウェブスター、ミドルトン、ターナー等のエリザベス朝悲劇の代表的作品を比較検討することで、エリザベス朝悲劇の成立と変容について考察することを一義的な目 標としています。もっとも、ウェブスター以後の劇作家は主としてジェイムズ朝に属しますが、本書ではジェイムズ朝悲劇も広い意味でエリザベス朝悲劇であるとみなして考察することにします。何故悲劇なのか、何処が悲劇なのかという問題意識を常に念頭におきながら各々の悲劇に内在する謎を解読する作業を通して、エリザベス朝悲劇の特色或いは魅力が明らかにできればと思います。とはいっても、厳密な意味での謎解きを目指すというよりも、謎の魅力、敢えていえば魔力に秘められた「力の本質」を焙り出すことをより大きな目標としています。特に主人公たちの苦悩と彼らが生きた時代の苦悩がもつ文化的・歴史的意味について探究しますが、可能な範囲でその現代的或いは普遍的意味についても考察するつもりです。苦悩を欠いた悲劇は存在しないと思いますし、それ故にすべての悲劇論において苦悩の分析、より正確には圧倒的な苦悩の体験を経ての主人公たちの「認識」の変化とそれがもたらす「自己成型」或いは「変容」に関する考察は不可欠であると考えます。筆者の関心を引き付けて止まぬ悲劇の世界は、主人公の圧倒的苦悩、いうなれば「苦海」をもたらす原因は一筋縄ではいかない、各々が深層において複雑に絡み合った、正に「謎」としかいいようのない世界です。
 先ず、「苦海」の要因は、主人公の性格や人生観或いは存在そのものと深く絡む内面的なものであらねばなりません。次に、それが時代や地域や文化や宗教とも深く絡むことによって多面的で文化的・歴史的な「苦悩」、或いは時代や思潮や国家の「典型としての苦悩」としての側面を有することによってその魅力は増大するでしょう。英語でいえば「リドル(riddle)」というよりも「ミステリー(mystery)」としての「謎」の世界であるといえるでしょう。「苦悩」は必ずしも単純な因果関係によってもたらされるわけではありません。本書で取り上げる悲劇の世界では、フォースタス風にいえば「地獄は極楽、極楽は地獄」或いはマクベス風にいえば「きれいはきたない、きたないはきれい」といった「撞着語法(oxymoron)」的世界観が主人公の苦悩に強い影響力、敢えていえば「魔力」を及ぼさずにはおきません。「存在」と「非存在」.「全」と「無」、「浄土」と「穢土」が反転変容する可能性或いは危険性を奥深く秘めた「謎」の世界こそ、筆者が本書で考察の対象として取り上げる悲劇の世界です。「謎の力」、さらにいえば「謎と力」の文字どおりミステリアスな関係についての考察を目指すといってもよいでしょう。本書のタイトルが生まれた所以がここにあります。 

目次

第一部 「エリザベス朝悲劇の成立と変容」――その謎解きの前に
第一章 本書の基本方針
第二章  シェイクスピアの生涯の謎
第三章 シェイクスピアの時代の謎

第二部 キッドとマーロウの悲劇作品
第一章 『スペインの悲劇』――空間と時間
第二章 『フォースタス博士の悲劇』――エロスとアガペー

第三部  シェイクスピアの悲劇作品
第一章  『ハムレット』――復讐と煉獄
第二章  『オセロー』――嫉妬と供犠
第三章  『リア王』――「自然」と「反・自然」
第四章  『マクベス』――「男としてのマン」と「人間としてのマン」
第五章  『アントニーとクレオパトラ』――性(ラスト)と聖(ラヴ)
第六章  『コリオレーナス』――名誉と慈悲

  第四部  シェイクスピアの「ロマンス劇――「悲劇」からの脱出
第一章 『ペリクリーズ』と『冬物語』――物語と演劇
第二章  『テンペスト』――島と大陸

第五部 ウェブスター、ミドルトン、ターナーの悲劇作品 
第一章  『白い悪魔』と『モルフィ公爵夫人』――愛と死

     第六部 悲劇論覚書
第一章 C・L・バーバーの悲劇論
第二章 マイケル・ニ―ルの悲劇論
第三章 ジョン・ドラカキスとナオミ・コン・リーブラー(編)『悲劇』の中の悲劇論
 

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