著者名 | 書名 | 出版社 | 出版年 |
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小野和人 | 『生きている道―ソローの非日常空間と宇宙』 | 金星堂 | 2015年 |
【梗概】
第一部 ソローの作品中でまだ精査が十分でない事項について検討した。
(1)作品“Walking” の中に“The Old Marlborough Road” というソロー自作の詩が含まれているが、それによってソローは何を意図したのか。
(2)作品The Maine Woods の第一章において、そのポイントとなったクタードン山の頂の場面と平地の焼け地の場面との有機的なつながりについて。
(3)作品A Week on the Concord and Merrimack Riversにおいて、旅の目的地となったアジオコチョーク山の頂については記述が見られないが、それは何故か、その沈黙の意味の検討。
(4)ソローの未刊の作品The Moonがどんな作品かを解説し、その意義を探った。
以上の作品の場面は、いずれも非日常空間と呼ぶべきものであり、ソローはあえてそのような場所に赴き、その場所を足場として彼の人生を再検討し、新たな生きがいを得ようと努めた。また人々にも同様に真の人生の獲得を促した。
第二部 ソローが宇宙に対して抱いた意識と発想についてのアプローチ。
(1)作品『ウォールデン』の末尾では、人の精神の目覚めと太陽による夜明けが対比され、「太陽は夜明けの星にすぎない」と太陽を貶めている。その表現を精査し、当時の天文学の状況も参照してソローの真意を探った。
(2)アメリカ・ルネッサンス期において天文学に関心を持った文人たち、エマソン、ポー、ホイットマンの作品に当時の天文学の知見や発見がいかに反映しているか、その状況を瞥見した。さらに、当時の天文学における宇宙像を参照し、文人たちへの影響を調べた。当時は我々の銀河系が全宇宙における唯一の銀河であり、その中心に我々の太陽が位置するという、太陽中心の、ひいては地球中心の宇宙観が支配していた。それによって人間を宇宙の主役、主人公とみなす発想があり、人間の捉え方を巨大化する傾向が見られた。
(3)ソローはそうした宇宙観を受け入れ、彼の住むウォールデン湖畔を宇宙の中心の如くに見なし、自分があたかも宇宙の中で生き、活動しているような表現をした。さらに、彼の心の成長を西部開拓の進展になぞらえ、到達した太平洋岸から宇宙へ進出してゆく発想を示した。こうして彼の宇宙は、やはり彼の人生を検討するための場(非日常空間)の延長線上に位置するものであった。
【目次】
まえがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第一部 生きている道・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第一章 生きている道―「旧マールボロー街道」を読む・・・・・・・・・18
第二章 「クタードン」の制作過程―メモ、講演から作品へ・・・・・・・35
第三章 ソローのサドルバック山登攀―心の聖域を求めて・・・・・・・・53
第四章 水源としてのアジオコチョーク山・・・・・・・・・・・・・・・71
第五章 非日常空間としての夜―作品『月』について・・・・・・・・・・90
第二部 宇宙への道・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・111
第一章 太陽は夜明けの星ー『ウォールデン』の結句について・・・・・113
第二章 アメリカ・ルネッサンス期の文化・文学における宇宙意識:
概観又は瞥見・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・128
第三章 ソローと宇宙・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・159
第三部 ソローと宮澤賢治・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・181
第一章 二人の比較の基盤を求めて・・・・・・・・・・・・・・・・・183
第二章 宮澤賢治の銀河系とソローの「天」・・・・・・・・・・・・・201
ソローの略年譜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・227
あとがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・231
参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・234
索引・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・243