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著者名 書名 出版社 出版年
松岡光治(編著) 『ディケンズとギッシング――底流をなすものと似て非なるもの』 大阪教育図書 2018

【梗概】
本書の出発点は、2017年10月7日(土)に東京大学の駒場キャンパスで開催されたディケンズ・フェロウシップ日本支部の秋季総会において、「ディケンズとギッシング――隠れた類似点と相違点」(司会・講師:松岡光治、講師:小宮彩加、玉井史絵、金山亮太、三宅敦子)という題目で行なわれたシンポジウムにある。C・K・ショーターは、ジョージ・ギッシング(著)『チャールズ・ディケンズ論』(1898年)の書評で、「ディケンズを好意的に批評する仕事がギッシング氏に与えられたのは面白い皮肉だ」と述べている。前者は貧困を実際以上に明るく、後者は実際より暗く描いているからである。楽観主義と悲観主義という大まかな作風の違いはあるにせよ、ギッシングの陰鬱な小説にはディケンズ的な笑いやユーモアが見られるし、ディケンズがギッシング並みの重苦しい深刻なテーマで書いた作品も少なくない。また、登場人物、プロット、語りの技法、社会問題の扱い方、ロンドンの情景描写などに関しても、両作家の類似点は枚挙にいとまがない。45年という年齢差がある二人には、持って生まれた気質の影響だけでなく、それぞれが活躍したヴィクトリア朝の前半と後半の時代精神や社会風潮の影響による相違点も確かに見出せる。しかし、自然科学の発達や科学技術の発明がもたらした新しい価値観の影響下で変貌する社会と文化を冷徹な眼差しで観察し、そうした変化にもかかわらず大半の人々の悪化する内面世界の真相を読者に提示している点は、両作家の作品の底流をなす最たるものである。ディケンズとギッシングの比較研究は単発的な論文としては従来もあったが、本格的な研究書は存在しない。本書では、上記のような「隠れた類似点と相違点」に着目しながら、ディケンズ・フェロウシップ日本支部の会員15名が、両作家の作品について独自の視点から比較検討を試みた。なお、本書は2018年に逝去されたギッシング研究の泰斗、ピエール・クスティヤス教授への追悼論文集となっている。

3. 目次

巻頭言 小池 滋
序 章 松岡光治「ディケンズとギッシングの隠れた類似点と相違点」
第1章 小宮彩加「ディケンズのロンドンからギッシングのロンドンへ」
第2章 吉田朱美「つのりくる酒の恐怖――ディケンズ作品から『暁の労働者たち』へ」
第3章 中田元子「紳士淑女の仕事――リスペクタブルな事務労働のジレンマ」
第4章 玉井史絵「小説家の使命――〈共感〉をめぐるポリティクス」
第5章 金山亮太「教育は誰のためのものか――社会から個人へ」
第6章 松岡光治「イギリス近代都市生活者の自己否定・自己疎外・自己欺瞞」
第7章 田中孝信「〈新しい男〉の生成――男女の新たな関係を巡る葛藤」
第8章 木村晶子「家庭の天使と新しい女――女性像再考」
第9章 松本靖彦「『互いの友』と『女王即位五十年祭の年に』にみる広告と消費(商品)文化」
第10章 新野 緑「ディケンズとの対話――『三文文士』における商業主義とリアリズム」
第11章 楚輪松人「原本と縮約版――二つの『チャールズ・ディケンズの生涯』」
第12章 宮丸裕二「伝記と自伝――人生はどう描かれるのか」
第13章 麻畠徳子「文人としての英雄──ディケンズの敢闘精神とその継承者」
第14章 三宅敦子「諷刺される十九世紀英国の室内装飾」
第15章 橋野朋子「ギッシング作品の書評にみるディケンズ的要素」
あとがき
使用文献一覧
図版一覧
執筆者一覧
索引

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