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飯野友幸 著 『フランク・オハラ――冷戦初期の詩人の芸術』 水声社 2019

【梗概】

 本書はアメリカ詩人フランク・オハラ(Frank O’Hara, 1927-1966)の詩を分析しながら、まず詩人として活動した1950年代から60年代半ばまでのアメリカ文化、とりわけ芸術的・政治的な側面にも光を当てることに主眼を置いている。 また、モダニズムが終焉に向かう1950年代半ばに新しい詩学が続々と創造されるなか、この詩人がどのように伝統に向きあったかを探ることで、アメリカ詩史を見直す試みでもある。
 オハラはニューヨークの近代美術館(MoMA)に勤務しながら、さまざまな芸術家、とりわけジャクソン・ポロックをはじめとする抽象表現主義の画家たちとの公私にわたる交友をもっていた。そのためか、詩作品は即興的で口語的、自由闊達で破天荒とさえ目されてきたが、実のところ国を挙げての冷戦プロパガンダに職業上関わらざるをえず、一方でゲイであることでいわゆる「封じ込め政策」の返す刀で抑圧される、というアイロニックな状況に置かれていた。
 そんななか、ビート派とは対照的にノンポリと評されるニューヨーク派に属するオハラの「政治性」とはいかなるものでありえたか、ということを通してオハラの詩へのこれまでの評価を覆したつもりである。
 また、絵画のみならず、音楽との関係にも一章を割くことで、オハラとその時代への新たな視点も導入した。
 「偉大なるアメリカ」という現大統領の言説は、淵源をたどれば冷戦初期に辿りつき、そこから事情はあまり変わっていないことは明らかであり、全体をとおしてそんな状況に置かれた詩人の態度にまで切り込んだつもりである。

3. 目次

第一章 シュルレアリスムから離れて――オハラと絵画(一)
第二章 冷戦に封じ込められて――オハラと絵画(二)
第三章 ラフマニノフ、フェルドマン――オハラと音楽
第四章 一歩離れて――オハラの詩と個性
エピローグ
付録 フランク・オハラ詩選

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