会員著書案内
著者名 書名 出版社 出版年
藤野功一(編著) アメリカン・モダニズムと大衆文学――時代の欲望/表象をとらえた作家たち 金星堂 2019

【梗概】

二〇世紀前期から中期にかけて、大衆市場とマスメディアが急速に拡大するなか、アメリカのモダニズム作家たちはどのように大衆文学の要素を取り入れ、時代の欲望/表象を捉えようとしたのか。本書は、この問いから出発して、ガートルード・スタイン、F・スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・フォークナーといったアメリカン・モダニズムの作家たちの作品と、これらのモダニズム文学から大きな影響を受けたジェイムズ・エイジー、リチャード・ライト、ラルフ・エリスンの作品、そしてこの時代に作家としての成功を目指しながら、高い評価が与えられないままに現在に至っている女性作家のゼルダ・フィッツジェラルドの作品を考察した論集である。

ダグラス・マオとレベッカ・L・ワルコウィッツの論文「ニュー・モダニスト・スタディーズ」(2008年)が指摘しているように、近年のモダニズム研究は、芸術的な高みを目指した作家達が、同時に大衆文化・大衆市場との強いつながりのなかで独自の文学を作り上げてきたことを明らかにしてきた。モダニズム作家たちは金のために書かれた作品を軽蔑したものの、実際には大衆文学の要素を貪欲に作品の中に取り入れており、同時に作家としての自己を宣伝し、世の中で成功する術を身につけていた。大衆の欲望をつかむ努力を意識的に行うことによって、モダニズム作品とその作家たちの価値は高まったのであり、逆に言えば、こういった作業を成し遂げることができなかった作家、たとえばゼルダ・フィッツジェラルドは、スコットの妻という立場のまま、作家としての評価を確立することができなかった。モダニズム作品の大衆文学的な要素の吸収、作者の広報活動とそのセレブリティ化の才能が後々まで続く文学的名声にかかわっていたとするなら、同じように文学生産に貢献したにもかかわらず、これらの作業に失敗したがゆえに名声を与えられなかった作家の文学をどう評価するかという問題も、あらためて考える必要があるだろう。

この論集に寄稿したアメリカ文学研究者(早瀬博範、高橋美知子、千代田夏夫、中村嘉雄、藤野功一、樋渡真理子、塚田幸光、永尾悟、山下昇)の論はどれも、二〇世紀の前期から中期にかけての作家たちが自分たちの作品を手に取る大衆読者を意識して文学生産の営為を行ったという認識を共有している。結果としてその努力が実を結んだかどうか、たとえば文学史上で評価されたかどうか、あるいは商業的に成功したかどうかは様々であるにせよ、ここで取り上げられた作品はどれも、それが生まれた時代の欲望/表象をとりいれながら、市場開拓に努力した作家から生み出されたものであることにかわりはない。この論集によって、個々の作家と作品の文学生産の実態を知ることにより、同時に、それらとアメリカ大衆社会がどのような関連にあったかを具体的に知ることへ至りたいと思う。

【目次】

序―アメリカン・モダニズムと大衆文学のつながり(藤野 功一)

ガートルード・スタインとセレブリティ・モダニズム(早瀬 博範)
ゼルダ・フィッツジェラルドの決定不可能なテクスト―「百万長者の娘」のモダニズム性(高橋 美知子)
F・スコット・フィッツジェラルドと第一次世界大戦―大衆性・アイロニー・モダニズム(千代田 夏夫)
優生学とヘミングウェイ―人種的レトリックの「大衆」戦略(中村 嘉雄)
メディアへの愛―ミドルレッド・ギルマンの『ソブ・シスター』とウィリアム・フォークナーの『サンクチュアリ』(藤野 功一)
フォークナー再売り出し―『ポータブル・フォークナー』成功の意味(樋渡 真理子)
「大衆」とフォト・テクスト―ニューディール、エイジー、文化の政治学(塚田 幸光)
人種を語る自伝的言語の構築―『ブラック・ボーイ』/『アメリカの飢え』における「リチャード・ライト」の位置(永尾 悟)
ラルフ・エリスンのモダニズムと大衆文学・文化(山下 昇)

あとがき
執筆者一覧
索引

トップページに戻る