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著者名 書名 出版社 出版年
赤尾千波 『アメリカ映画に見る黒人ステレオタイプ--「国民の創生」から「アバター」まで』 富山大学出版会/梧桐書院 2015

【梗概】
◆アメリカ社会を映し出す「映画という鏡」
 現在、アメリカで多発するヘイトクライムや銃による犯罪――この暗部の底に、「ステレオタイプ化して異人種を見る姿勢」があることは間違いないと思われる。本書は映画や文学に登場する黒人ステレオタイプのルーツを明らかにする試みであり、現在進行形のアメリカ社会を映し出す「映画という鏡」を、観直す一つの方法を提供しようとするものである。

◆教科書スタイルで「映画分析の手法」を可視化
 本書は二部構成である。まず「基礎編」第1章で、合衆国に奴隷制があったころから存在した「ミンストレル・ショー」について紹介。ショーの定番黒人キャラクター「アンクル・トム」「マミー」「クーン」を説明し、これらのキャラクターが、あとから加わった「ムラトー」と「バック」とあわせて、いかに5大黒人ステレオタイプを形成したかを解説する。第2章では、映画誕生以前からあった、こうした黒人ステレオタイプがアメリカの実社会と、文学・映画・マンガ等の作品の中にどのように引き継がれ “洗練”されていったか、具体例を挙げつつ歴史を辿って考察する。  続く「演習編」では、14の映画作品を5つのテーマにそって分析。各Unit末尾には、【発展課題】として、ディスカッション・トピックと研究のヒントを示した。本書で扱う映画の多くは、著者が大学の授業で扱った作品であり、各Unitの分析ポイントや発展課題には、そうした実際の授業で行ったことが示されている。授業でご利用になる場合に備え、DVDからのセリフ引用はできる限り原文と和訳を併記し、DVDチャプター数と時間を記した。

◆「脱・人種ステレオタイプ」を掲げた文学作品が映画になると…
 本書が注目するのは映画だけではない。第6章では、黒人女性作家ヌトザケ・シャンゲの舞踏詩『死ぬことを考えた黒い女たちのために』、アーシュラ・K・ル・グインの『ゲド戦記』、スーザン・コリンズのジュニア小説『ハンガー・ゲーム』と、それぞれの映画版――For Colored Girls(日本未公開、2010年)、『ゲド―戦いのはじまり』(アメリカのTV映画、日本語字幕付きDVD有り)、『ハンガーゲーム』(2012年)――について、比較考察する。原作はいずれも、「脱・人種ステレオタイプ」のテーマを担うものであり、『ゲド』『ハンガー・ゲーム』では、主人公はじめマルチレイシャルなキャラクターが多出する。しかしこうした登場人物は、映画化されるとステレオタイプ的キャラクターにすり替えられる――その様を図解しながら考察する。

◆研究室HPとリンクし、情報アップデート
 本書は赤尾研究室HP(http://www.hmt.u-toyama.ac.jp/eibei/Akao/index.htm)とリンクしている。HPには、書籍より詳細な「さくいん」に加え、本書掲載の写真(すべてウィキメディア・コモンズ)のオリジナル版と説明文を掲載。また、本書で扱った映画を題材に書かれた学生の卒論や口頭発表ハンドアウト実物も掲載。こちらは、学年ごとにアップデートしている。

【目次】
はじめに / 本書の内容と使い方 / 本書を使って授業をされる方へ
第1部〈基礎編〉 アメリカ映画における黒人ステレオタイプの発生と発展
第1章 ミンストレル・ショーと映画の黒人ステレオタイプ……………………………10

コラム:レポート・卒論にお薦めの映画は?――〈黒人映画のカリスマ〉
  メルヴィン・バン・ピーブルズの作品は賛否両論……………………………31

第2章 アメリカ黒人ステレオタイプと歴史的背景………………………………………45
1 奴隷制度と「人種の線引き」の始まり:植民地時代から南北戦争まで
2 南北戦争後の白人の「反撃」と表面化する黒人差別:南北戦争終結から19世紀後半
3 目覚めた人権意識と映画の役割:第一次世界大戦から1920年代
4 「映画製作倫理規定」が選んだ黒人の役どころ:1930年代から40年代
5 第二次世界大戦とプロパガンダ映画:第二次世界大戦当時
6 巧妙化する差別と映画に見る「理想の黒人像」:第二次世界大戦後
7 激化する黒人運動と新しい黒人文化の出現:1960年代半ばから70年代
8 保守化するアメリカ社会と活躍する黒人タレント:1980年代
9 拡大する貧富の差、多様化する黒人映画:1990年代
10「 マルチレイス」な現実に追い抜かれる「映画の黒人」:21世紀のアメリカ社会

コラム:アメリカ最新映画情報――執事と奴隷と大統領:ステレオタイプの
  『ヘルプ』を越え、 “等身大” の黒人像を描く最新映画3作…………………79

第2部〈演習編〉 アメリカ映画に描かれた黒人像を読む
第3章  恐怖と希望の「黒人大統領」
――白人至上主義者の悪夢から、近未来を表す「記号」へ……………………82
Unit1 『国民の創生』(1915)

コラム:アメリカの小説に「白人の描く黒人像」を読んでみよう
 *黒人蔑視とKKK礼賛の時代が生んだ『クランズマン』と『風と共に去りぬ』
 *「もし黒人が大統領になったら」『ブラック・ボーイ』に見る
   反黒人プロパガンダ…………………………………………………………………88
 
Unit2 『フィフス・エレメント』(1997)
Unit3 『ヒップホップ・プレジデント』(2003)
 
第4章  ミレニアムのマジカル・ニグロ
   ――「古き良き時代」を表す記号としての黒人…………………………………115
Unit4 『グリーンマイル』(1999)

第5章  黒人映画ブームその後 …………………………………………………………127
――スパイク・リーの実験は続き、ブラクスプロイテ―ションの保守性も「健在」
Unit 5 『バンブーズルド』(2000)
Unit 6 『ハッスル&フロウ』(2005)

コラム:投稿ウェブサイトでいじられる「あのステレオタイプ」
    ――白人との結婚は無教養な黒人の夢?!1世紀をへてなお変わらない
   「アメリカ人の暗部」…………………………………………………………145

第6章 原作から映画へ――変更の意図を探る……………………………………………149
Unit 7 『ゲド―戦いのはじまり』(2004)
Unit 8 『タイムマシン』(2002)

コラム:レポート・卒論をめざす人に〈教授のつぶやき〉@ ……………………………165

Unit 9 『フォー・カラード・ガールズ』(2010)
Unit 10 『ハンガー・ゲーム』(2012)

第7章 全部混ぜると青くなる?――宇宙人の顔をした非白人…………………………187
Unit 11 『スター・ウォーズ・エピソードT』(1999)

コラム:レポート・卒論をめざす人に〈教授のつぶやき〉A………………………………199

Unit 12 『エイリアン』(1979)『プロメテウス』(2012)
Unit 13 『アバター』(2009)

コラム:昆虫もロボットも、行きつく先は「あのステレオタイプ」………………………222

参考資料一覧 / 年表―日米のできごとと主な黒人関連映画 / 索引 / おわりに

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